2007-11-25

スズキさん 第1回 合羽橋から 中嶋憲武

スズキさん
第1回 合羽橋から   中嶋憲武



仕事。午前中、スズキさんと納品して廻る。

スズキさんは社長の母上の弟。

老舗の和菓子屋の倉庫へ、手提げ袋200個入りと300個入り、500個入りを50箱納品する。箱は結構大きくて一個一個が重い。

倉庫は、以前の店舗で、店の奥は今は使われていない住居で、一階がリビング、二階に4部屋あり、そこへそれぞれの個数別に運び込むのだ。体力使う使う。まず、車の荷台から降ろし、玄関先へまとめて置き、階段下、階段上、各部屋と、ある程度の量の箱を移動させて行く。階段の途中にぼくが立ち、下からスズキさんが投げる箱をキャッチして、階上へ投げる。階上に溜まった箱を、各部屋へ運ぶ、という作業の繰り返し。

二階の一番奥の部屋に本棚があって、荷物を降ろすスズキさんを待っている間、何気なく眺めていると、学研の原色大百科全巻、北山修の「ピエロの唄」、北杜夫のどくとるマンボウシリーズ、「楡家のひとびと」、J・アダムソンの「野生のエルザ」、亀井勝一郎の「大和古寺風物誌」、小林秀雄の「考えるヒント」などの文庫が並んでいて、持ち主は、ぼくと同世代の女性と睨んだ。読んだ本がほとんど同じだったから。女性と思ったのは北山修と北杜夫、「十五歳の絶唱」という難病で亡くなった少女の手記があったからだ。あとで社長に聞くと、やはり同世代の女性だった。なにか親近感を抱く。会いたいとは思わないが。ここに同じ時代の空気を吸っていたひとを見つけたという懐かしさのような感情だ。

外で荷物を降ろしていると、目つきの鋭い角刈りの、板前風の男二人とすれ違った。スズキさんがすかさず、「あれ、サラ金の取り立てだよ」と言った。「どうして分かるんですか」と聞くと、「小脇に抱えてる小さなバッグと携帯ね。あれで分かるよ」との事。恐るべし、根岸の街。

午後は印刷。17時に終了し、機械を洗って帰る。スズキさんから、自転車を頂き、早速、家まで乗って帰ることにする。スズキさんが近所のひとから貰ったもので、乗らないので、呉れるというのだ。フツーのママチャリ。

合羽橋から上板橋まで漕ぐ。本郷、小石川のあたりはかなりアップダウンがある。変速機が付いてないので、太腿がすこし張ってくるのが分かる。それでも、スピードをあげて走る。インターバル走もやってみる。陸上競技である区間はダッシュで、ある区間はゆっくり走るトレーニングがあり、これをやってみたのだ。トップスピードは時速60キロは出ていたと思う。

合羽橋から我が家まで65分で着く。


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