2007-11-18

THC代表5句集 テキスト

トーキョーハイクライターズクラブ 代表句五句



飯田哲弘 「濁り」

地獄とも思へる春の大気かな
昼はせぬ川の匂ひや盆用意
冬ざるる牛の寄りては舐める石
海鼠死んでにはかに海の濁りかな
何も考へず梟の目の中にゐる


生駒大祐「はるきにけらし」

すこしふゆ畳に体投げ打てば
本堂のまたたいてをる寒牡丹
はつはるの砂浜濡れてゐたりけり
音楽をどつさりと買ふ春帽子
春風の日のさわがしき机かな


上野葉月「クリニック」

爛漫の日向に配る甘茶かな
金髪のおでこを見せる春の風
燃えるゴミの次第に増える神の旅
甘かったと気付いたときに鰤来る
烏山肛門科クリニックああ俳句のようだ


梅崎実奈「パレード」

四つ這ひのもの灼かれをり百貨店
南風吹く足組みて弾くマンドリン
冷やかに水銀のぼるひとりの夜
アステリスク多き論文小雪降る
肩越しに見るパレードや菫跨ぎ


金子耕大「私の見る風景」

朝白く小鳥来る声のみを聞く
秋冷の川の小波の夕べかな
秋麗に子猫は四肢をのびひらく
鋭利なる三日月あげて神迎
えりもとに落つる松葉や雲の峰


河本いずみ「ソケット」

柔らかな組織噛みたり花の昼
菜の花を摘んで自由になりにけり
細き腕の描く円かなプールにて
欲しがりのテレビを叱るヒヤシンス
果実酒が子宮へ染みる二月かな


小林鮎美「火傷の舌」

横顔を窓に映して冬の旅
梟の似合ふ老婆になるも良し
悲しくてショートケーキの苺かな
風花に火傷の舌を隠し持つ
同志集へり皆ジャージにマフラーで


竹岡佐緒理「父来る」

オーバーに潮のにおいの付いており
昼の雪来るというからお湯溜めて
犬棄てる革手袋を嵌めたまま
軒ごとに父さんいるかクリスマス
火事遠しぱっと電気を消しちゃった


谷雄介「蟷螂墜ちて」

七夕や遠くに次の駅が見え
蟷螂墜ちて地の蟷螂にぶつかりぬ
陸封のものどものうへ紅葉せよ
筍をしづかに運ばねばならぬ
ががんぼの咲くやうにして死ににけり


津久井健之「五句」

鼻すぢはこはさずに泣く涼しさよ
奥行きのありたる秋の花屋かな
まつしろの上履きに鳴く月鈴子
蛍火のひとつ灯りし植木鉢
火事の雲巨象のごとく町を去る


中田八十八「恵比寿」

柱だけつくりし家の淑気かな
炎昼やふと遺跡めく一号館
葛餅をさげ恵比寿から上野まで
ばあちゃんの忌のまんまるの西瓜かな
冬晴れや高きにをれば神の猫


中村安伸「日と月に」

秀吉はいまだ世に出ぬ淑気かな
行く春や機械孔雀の眼に運河
殺さないでください夜どほし桜散る
総崩れの寺引いてゆく花野かな
日と月にわれてあはぬよ枯木山


瑞穂「咳ひとつ」

二十日のみ先に生まれて寒雀
冬夕焼け少し小さきポツケであり
大切な人が居ると言ひ咳ひとつ
日なたぼこ友達以上といふずるさ
冬立つや吉祥寺まであと五分


モル「走る」

しゃぼん玉螺旋階段駆ける音
ラムネ飲みほす鉄塔の先に風
濁音のない歌鰯雲ひとつ
飛行機の低音遠くダム冷ゆる
逆走のエスカレーター帰雁かな


山口優夢「青春」

あめりかに捧ぐすみれのすみれ色
故郷に墓口中にさくらんぼ
そのあとのシャワーの匂ふ闇なりけり
目の中に西日ありけり旅終えても
映画観たくなれど木枯かぎりなし

9 コメント:

さんのコメント...

こんにちは、落選展にお邪魔した桜です。あれ以来、メンバーの方の座談会や落語へのリンク、私にとってはちょっと難しい論争まで興味深く拝見させていただいてます。”THC代表5句集テキスト”拝見しました。ここに好きな句の感想を書き込むのが適当かどうか判断できませんが・・書いちゃいます。

地獄とも思へる春の大気かな
  
春の大気に地獄を喚起するこの残虐性、耽美が過ぎて反って天国みたいです。

海鼠死んでにはかに海の濁りかな

在るがままの現象の奥に在るものの尻尾、掴んだと思ったら海鼠みたいにずるりと逃げていくものへのハードボイルドな接近。

何も考へず梟の目の中にゐる

何も考えまいとする考えが分け入ってゆく梟の眸の中。作者自身が琥珀のなかに閉じ込められた虫みたいだと思いました。

烏山肛門科クリニックああ俳句のようだ

ここまで言うかって・・、でも面白い。俳句という生き物を叩きつけて踏みにじってああ愛してるって言ってるみたい。サド侯爵。

葛餅をさげ恵比寿から上野まで

何故だろう。この俳句が好きです。恵比寿から上野まで闊歩している感じが健康的で、難しいことは何も言っていない代わりに、余計な贅肉も付いていない。子規的正しい俳句の呼吸法。

以上、好きな作品でした。こっそりお邪魔して早々に失礼します。

葉月 さんのコメント...

桜さん、こんにちは。
俳句世間一のいじられキャラ、その実サド侯爵の葉月です。
拙作をお褒めいただき感謝大謝であります。舞い上がっております。

第29号の記事にも気になるものがあれば是非個別にコメントいただけるとさらに舞い上がる予定です。よろしくお願いいたします。

八十八 さんのコメント...

桜さんコメントありがとうございます、八十八です。
葛餅の句は私自身、何故かよく分からないけれど気に入っている句でしたので、共感して頂けて非常に嬉しいです!

とき さんのコメント...

生駒大祐「はるきにけらし」
本堂のまたたいてをる寒牡丹
「本堂のまたたいてをる」という把握が良かったです

上野葉月「クリニック」
金髪のおでこを見せる春の風
「金髪」がこんなに効果的に使われた俳句はないでしょう

金河本いずみ「ソケット」
柔らかな組織噛みたり花の昼 
少々曖昧だけど、ちょっぴり惹かれました
菜の花を摘んで自由になりにけり
菜の花を眺めているだけでは自由になれない

小林鮎美「火傷の舌」
横顔を窓に映して冬の旅
悲しくてショートケーキの苺かな
二句ともいい把握だと思いました

谷雄介「蟷螂墜ちて」
七夕や遠くに次の駅が見え
このような駅が確かにあります
季語の斡旋が近くて遠くて、、、いい

葉月 さんのコメント...

ときさん、コメントありがとうございました。
そういえば私もかなり好きです。

本堂のまたたいてをる寒牡丹

朝比古 さんのコメント...

何も考へず梟の目の中にゐる  飯田哲弘
 作者にとっての癒しの時間。何も考えずとは言っても、実は俳句のことを考えている矛盾。そういう無防備なところがこの句のよろしさでもある。

本堂のまたたいてをる寒牡丹  生駒大祐
 詩情豊かな感性を持つ作者。寒々と磨き上げられた本堂が見えてくる。レトリックとしての「をる」は工夫とも稚拙とも。

爛漫の日向に配る甘茶かな  上野葉月
 春らしさ満開。お釈迦様もお喜びと思う。「烏山肛門科クリニックああ俳句のようだ」は好きな人はたまらない句のよう。わたしにとってはただの散文。

南風吹く足組みて弾くマンドリン  梅崎実奈
 奏者に包まれるように弾かれているのだろう、マンドリンがなにやらよろしき風情。

秋麗に子猫は四肢をのびひらく  金子耕大
 衒いのなさに好感。なにやら忘れていたものを思い出させてくれるような感慨。

柔らかな組織噛みたり花の昼  河本いずみ
 相対的に挑戦的な措辞に若さを感じる。「柔らかな組織」、なにやら理科室で作られた煮物・・・そんな気がしてくる不思議な措辞。

風花に火傷の舌を隠し持つ  小林鮎美
 火傷の舌、ヤラレタ感あり。風花の斡旋も上手。「に」がいかにも勿体無いなぁと思ってしまうのは、私が俳句ずれしてしまったからだろうか。

犬棄てる革手袋を嵌めたまま  竹岡佐緒理
 独善的視線に面白さ。掲出句、作者の強がりが切ない。

ががんぼの咲くやうにして死ににけり  谷雄介
 ががんぼ句として秀逸と思う。写生句のようでいて完全な感覚句であるところ、手練。

奥行きのありたる秋の花屋かな  津久井健之
 こう詠われると確かに「秋」。ひややかな暗がりまでが見えてくる嬉しさ。まっとうな写生句を淡々と詠う、そんな作者の真摯な姿勢に共感。

柱だけつくりし家の淑気かな  中田八十八
 掲出句、「つくる」は「立つ」ではないかなぁと思わせつつ、淑気感は確かにあり。的確に捉えることを拒否するような措辞の違和。このぶれが面白さでもありつまらなさでもある。

秀吉はいまだ世に出ぬ淑気かな  中村安伸
 心地よいまでの独善。琴線に触れたときの振れ幅は大きいが、はずれたときのがっかり感も深い。孤高の地をゆく格好良さ。野垂れ死にしても悔いはない的な覚悟を持ってやれれば・・・などと思う。

冬立つや吉祥寺まであと五分  瑞穂
 中央線に乗って荻窪あたりにいるのだろうか。こんな時に「あ、冬だ」と感じられるのは俳句をやっている人だけかも。

しゃぼん玉螺旋階段駆ける音  モル
 春の平和的風景と緊張感との対比。どの句もとてもよく解るように作られているのだが、逆に「一語」多い印象も。

あめりかに捧ぐすみれのすみれ色  山口優夢
 とても示唆的思想的ではあるが、こういう句があってもよい。今回は角川賞応募作品と比べるとなにやら思わせぶりな句ばかり選んだような。試行錯誤の真っ最中と想像。


全体を読み通して、良くも悪しくも、既にTHC的な俳句というものが出来つつあるような気がしたのは私だけの感想ではないと思う。

妄言(暴言も)多謝。

瑞穂 さんのコメント...

朝比古様

はじめまして
瑞穂です。

コメントどうもありがとうございました!
実は俳句を始めてすぐの頃の句なのですが
やっていると季節の移り変わりが楽しいですね。
またがんばります!

モル さんのコメント...

朝比古様

コメントありがとうございます!
一句に詰め込みすぎてしまう癖はこれからの課題のひとつだと思います。
またダムの会にも遊びにいらしてくださいね。

ユースケ さんのコメント...

>ときさま
「七夕」いいですよね!
もはや自画自賛祭です。コメントありがとうございました。

>朝比古さま
コメントありがたいです。
THC的な俳句ですか。うーん、ちょっと考えてみます。