【俳誌を読む】
『俳句』2008年4月号を読む 1/2 ……さいばら天気
●岸本尚毅 名句合わせ鏡(4)写実について~河原枇杷男の場合 p120-
河原枇杷男の句と西洋絵画を並置して、写実を論じ、極めて刺激的です。枇杷男の句が全体として「超現実的」でありながら、「部分」が写実的な生々しさを有することは、ダリ「内乱の予感」、マグリット「大家族」といったシュールな絵画の「部分」の描き方が「写実的」であるのと同様と指摘。
(マグリットの「大家族」を)俳句に書き換えると「或る空は鳥の形をして飛べり」となります。いうまでもなくこの句は枇杷男のパロディです。
或る闇は蟲の形をして哭けり 河原枇杷男
(略)暗闇に多くの虫が鳴くとき、虫の姿は見えず、あたかも闇自体が鳴いているような感じがします。この句がそのような実感を踏まえつつ超現実的な情景を描き出しました。(略)この句の〈或る闇〉〈蟲の形〉という措辞には、写実的な筆致が感じられます。超現実的な情景は、部分部分を写実的に描くことによってリアリティを持ち得ます。ダリやマグリット(略)の絵の写実性は、「何を描くか」ではなく、「どう描くか」において写実的なのです。
岸本尚毅の言う「写実」は、射程が広く、示唆に富む。客観写生派、非客観写生派(シュールな作風)の双方の足下を揺るがすような気がします。
ただし、ここある「写実(性)」と「写生」とが同一のものなのかどうかは私には不分明。意図的にか無意識にか、この論考に「写生」の語は出てきません。
※なお、参考までに、岸本当該記事で触れられた絵画のうち4点の画像を付しました。
●宮坂静生・村上護・山下知津子 合評鼎談4:名句になる三つの条件 p181-
●藤原龍一郎 現代俳句時評4:名句について p242-
2つのシリーズ記事が『俳句』2月号の特集「本当に名句?」を取り上げています(この特集については小誌第42号・五十嵐秀彦「『俳句』2008年2月号を読む」にも言及あり)。
http://weekly-haiku.blogspot.com/2008/02/20082_10.html
大まかに言うと(少し乱暴ですが)、村上護、藤原龍一郎の両氏は、この特集の企画と記事を称揚するスタンス。山下知津子氏は態度留保、宮坂静生は批判的。
宮坂:(略)(鑑賞者の読みは)「平成のただいまの読み」なんですね。何年か過ぎれば、またその時代の読みがある。といいますのは、言葉はそのときどきの時代の流行を捉えるかたちで作者に詠まれ、読者に読まれております。(略)その時代の言葉の流行を踏まえて作られているので、読み方も作られた時代に気を遣いながら読むことになる。これはかなり正統的な読み方でして、読みとしてはまず必要だろうと思うのですが、その読み方がいささか手薄だなと感じます。
さらに宮坂氏は「作られた時代の状況、気分を理解し、それらを乗り越えてわれわれに訴えてくる作品が名句だ」と述べ、「好き嫌いのレベルで反応する鑑賞の仕方」にとどまることへの注意を促しています。
●俳人協会各賞決定! p139-
俳人協会賞は大嶽青児と今瀬剛一。あれっと目が止まった句。
廃船の中も潮満ち鰯雲 今瀬剛一(『水戸』三十句抄)
『俳句年鑑2008年版』「年代別2007年の収穫」では、
廃船の中も満潮春の星 今瀬剛一
と微妙に違っていました。で、どう、というのではないのですが。
※大特集・「切れ」についての大問題については次号に。実際なかなか大問題で、お時間をいただきたく。
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