【特集・海外詠】
銀 河 ……対馬康子
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オリーブの種子ほろほろと陸さみし (ヨーロッパ)
口腔は若し噴水の野獣像
異国旗のひきずられ行く雪峠
国中の時計の音がして夕立
教会の奥ほど氷雨激しかり
娼婦等は首から老ゆる春の午後
胎動は氷河きらめくときにあり (アメリカ)
キャンドルになりたき黒人少女のイヴ
皮靴はさみしいかたちオタワの星
耳熱し一人にあらず滝の前
枯枝に身をおおわれている産後
乳与う胸に星雲地に凍河
国の旗平らにたたむ雪の家
告白を始める息をして泳ぐ
無名なり胡桃を割って兵となる
引き出しに常に聖書と厚い枯葉
マフラーをはずせば首細き宇宙
黙々と砂漠に雪が降るこわさ
花火より火の棘降りてくる他国
手袋の五指恍惚と広げおく
死と生と月のろうそくもてつなぐ (タイ)
身を売ってしまう積乱雲の中
高床の家にも霧の郵便夫
渋滞や象の荷物のいわし雲
家々に神あり蛍火のごとく
夕焼けは密かな木目渋滞す
象使い銀河に集い来て眠る
遠雷や路上にミシン踏む男
膝軽く寄せ合い蘇州繭を煮る (中国)
藁こぼす上海の窓つばくらめ
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大学4年生の春、「自らの詩性を問うために」中島斌雄師が前年たどった欧州の同じコースを私も旅した。3週間6ヶ国をめぐる旅だった。二十代終わりには、夫の留学に伴いアメリカ東部コネチカット州に2年間暮らした。美しい黄落の町並、冬の厳しい寒さの中、海外での出産を経験し、人種ということを考えたりもした。斌雄先生が提唱された社会性俳句、新具象主義というものを自己の内面に問い詰める2年間であった。「天為」創刊に参画してからのバンコクでの3年間は、海外俳句の第一人者である朗人先生の処女句集『母国』と真正面から向き合った。アジアに住む俳人達と連携し、朝日新聞の御力を借りアジア俳壇を創設し、グローバリゼイションの中で奮闘する日本人の直面する新しい社会性俳句をめざした。その幾分かの成果は『天之』に収録した。天命に赴くという意味もこの句集にはこめてある。自分としては、俳句という「認識の詩」の力を信じよと一貫して子規から、青邨から、斌雄から、朗人から教えられてきた。俳句を日本の風土に限定された詩と捉えたことはない。したがって海外俳句とは何なのかよくわからない。俳句に国内も海外もないのではないだろうか。
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