【俳誌を読む】
『俳句』2008年6月号を読む ……上田信治
基本的にこのコーナーでは、総合誌に掲載された「論」を中心に、とりあげることにしています。「句」については、好みの問題になりがちだし、いい句が読みたい、というのは、総合誌に対するというより、作者に対する希望である、としておいたほうが、話がすっきりするので。
ところが、今月の『俳句』は全体「論」より「句」という趣。
やむをえず(というのでもないんですけど)、今回は「句」中心に読んでみます。といっても、合評鼎談の出席諸先生のような、総合的見識もバランス感覚ももちあわせがないので、それこそ「好み」のレベルの気まぐれ読みになってしまいますが。
防人か妹か寒気の中に立つ 大串 章
「房総のうた、万葉のひびき」50句(p20-)より。大串章さんは、いい意味で常識人というか、お子さんが生まれて「酒も少しは飲む父なるぞ秋の夜は」なんて詠まれるところが、ぐっとくる作家さんだと思うんですが、今回の作は、少なくともオシャレに万葉語を駆使した作品ではなくて、それは、よかったです。自分もそうですが、大串さんも、ずぶずぶに現代人だなあ、と。
いつまでも日は西にある牡丹かな 大峯あきら
「牡丹」21句(p34-)より。大峯さんは、ともかく大景を詠まれる方。今回も大きいです。
死もどこか寒き抽象男とは 正木ゆう子
「寒昴」21句(p38-)より。「父の死」が中心モチーフになっているらしい。「男とは」と、一般化されて切り捨てられては、男は、詮ないです。「貝洗ふ」の句に、注目。
空へ散る桜ダチョウの模型卵 坪内稔典
「千年前の今」16句(p50-)より。ネンテンさんの句はオールOKかその逆かで、書き抜きにくいです。
●夏の名句100選 選・池田澄子(p60-)
「夏」と聞いた瞬間、一句目はあの〈夏は来ぬ〉(*プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ)だと決め、螢の句は〈おおかみに螢が一つ付いていた 兜太〉にしようと思った。が、〈上の句がなんであらうと初松魚 郁乎〉を見たら、〈きよお!と喚いて〉(*きよおと喚いてこの汽車はゆく新緑の夜中)を、その句の前に置きたくなってしまった。(*上田注)
「100句選」という企画はおもしろくて、以前の『俳句界』の記事「リアル100句・鴇田智哉選」「鎮魂100句・真鍋呉夫選」などは、おりおり読み返します。この100句も、ぜひお手にとって。〈あすも見むはつ花茄子吾なすび 夏目成美〉って、なんなんでしょ。あはは。
青空の少し手前に虹かかる 長谷川櫂
「テーマ別私の一句」(p101-)より。こういうナイーブネスは、とても好きです。
この蚊打つと決め立ち上がり追廻し 福永法弘
「薔薇の園」12句(p114-)より。あはは。
「亡びゆく」12句 高柳克弘(p118-)
この12句は、今月号の目玉と思われ。ここから、引用しちゃったら角川も商売にならないと思うので、あえて引きません。自分がいただくとしたら「酢」の句です。
ボディビルの筋肉むあんと水温む 杉山哲也
「平成俳壇スペシャル」(p266-)より。あはは。
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2008-06-01
【俳誌を読む】『俳句』2008年6月号を読む ……上田信治
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