【週俳5月の俳句を読む】
西村 薫隠されたエロスと倦怠感
首刎ねよ首を刎ねよと百千鳥 菊田一平
発掘のけふは休みで翁草
畳屋の奥より菖蒲湯の匂ひ
「首刎ねよ首を刎ねよと」といくらか衒ったフレーズに
鳥の正体のはっきりしていない「百千鳥」を配して巧いと思う
「百千鳥」という言葉は万葉の昔から使われていたらしい
動いているさまざまな鳥の首だけが目の前に現れてくる
二つの匂いのするものを衝撃させて、
一層それぞれの匂いを際立たせている手腕は流石だ
どちらも青々しい香りがする
オムレツの何や彼やとて百千鳥 伴場とく子
閑な日はひまなままいて春の雲
ゆく春のほろほろ鳥のサラダかな
ランチタイムをオムレツやほろほろ鳥のサラダを食べてお洒落に過ごし
「閑な日」は、春の雲を眺めて心のひまを自由にたゆたう作者
万緑や鳥に生まれて鳥を追ひ 杉山久子
地球一周してたどりつくキャベツの芯
生命力旺盛な緑一色の草木の下
雌雄が求愛行動をし交尾する
ゲイ、バイ、ストレートにかかわらず、人間も然り
一枚一枚剥いできて残ったキャベツの芯の存在感は
「地球一周してたどりつく」ことによって生れるしかなかった
通い猫うなじを噛みにやつてくる 玉簾
自転車を裸足でこげば春の海
行く春やサンショウウオの手がひらく
吸血鬼が首筋に牙をたて鮮血を啜るシーンはどこか官能的
「通ひ猫」の句からそんなことを連想した
ペダルを裸足で漕いだときの足の裏の感覚が蘇えってくる
季語「春の海」が好ましい
ほとんど動かないサンショウウオ
その手に着眼した作者の手柄は大きい
花過ぎの雨や黒靴下に穴 力馬
和をもつて目刺を焼いてをりにけり
遠足の二百人はなれて三人
晩春や店番をらぬ履物屋
荷風の忌寝ぐせにのせる蒸タヲル
一句目の上品なウイットとユーモアに隠されたエロスと倦怠感に惹かれる
三句目は「三人」にクローズアップした画面構成が新鮮
五句目は仮名の使い分けしたことで詩の香りがしてくる
憎らしいほど巧み
スキャットのごとくそこいらぢゆう菜の花 憲武
だつて蜂髪にリボンをつけなさい
春の月愛に食事に口つかふ
ん、スキャット?と一瞬思ったが、
スキャットのメロディーとともに一面の菜の花の黄が目の前に現れてきた
蜂は黒いものを襲う習性がある
それで「髪にリボンをつけなさい」と言っているのかどうかは知らないが
「だつて蜂」のはすっぱな口語が魅力的
三句目の「口つかふ」は、口を使って愛の言葉をささやいているのではない
言わずもがなだが…
■伴場とく子 「ふくらんで」10句 →読む■杉山久子 「芯」10句 →読む■一日十句より
「春 や 春」……近 恵/星 力馬/玉簾/中嶋憲武 →読む
縦組30句 近 恵 →読む /星 力馬 →読む
/玉簾 →読む /中嶋憲武 →読む■菊田一平 「指でつぽ」10句 →読む■Prince K(aka 北大路翼) 「KING COBRA」 10句 →読む
2008-06-01
【週俳5月の俳句を読む】西村 薫
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