2008-07-06

家具家電について 上田信治

家具について 
上田信治


初出「里」2007年6月号 特集・櫂未知子『言葉の歳事記を遊ぶ




家具・家電  上田信治

春 愁 の 無 理 を き か せ る 座 椅 子 か な  

ラ ッ カ ー の 匂 ふ 戸 棚 や 春 の 鳥

洗 濯 機 ベ ラ ン ダ に あ り 若 楓

戸 の 開 い て 便 器 の 見 え て ゐ る 薄 暑

初 夏 の ち や ぶ 台 の 脚 立 て て ゆ く

新 緑 や そ こ に 時 計 を 掛 く る 壁

F A X よ り 鰻 屋 の 地 図 入 道 雲

葉 桜 の ふ と 箪 笥 め く 紀 尾 井 町

長 椅 子 の う し ろ 卯 の 花 腐 し か な

抽 斗 に 苺 ミ ル ク の た め の 匙





自然のあれこれと違い、家具・家電は、神様ではなく、人間の必要によってこの世に生まれたもので、いわば人間の身内です。

自然物を指す言葉、たとえば「西瓜」が、必ずあの西瓜を指すのと違って、人工物、たとえば「道」や「家」という言葉は、一語だけでは、どんな道か家かが定まりません。

しかし家具・家電は、だいたい、その形、その大きさと決まっていて、西瓜ほどではなくても、犬や牛くらいには、物と名前の結びつきが確からしい。


食慾はひょっとベンチのやうなもの 阿部青鞋


家具・家電は、家畜に似ています。人間のための特定の用途があって、生活に入りこんでいるところが。大きさも、それぞれ動物を連想させるサイズです。

しかし、犬から犬であることは奪えませんが、家具・家電は、用途を奪われて、オブジェのように見えることがあるのが、面白いところです。


短日や道に売られし食器棚 対馬康子




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