【俳誌を読む】
『俳句』2008年10月号を読む
さいばら天気
●特集:秀句をつかむ推敲の秘訣 p59-
作句ノウハウの紹介記事。総論はなく(総論は書きようがない、あるいは不要との判断は妥当)、多数の著者が1ページずつ分担。それではのっぺりしてしまうので、「先人たちに学ぶ推敲過程」、「推敲と改作」、「私の推敲三か条」、「推敲の落とし穴」、「私の推敲過程」の5パートに分けた編集上の工夫・苦心が見て取れる。
読者がそれぞれヒントを見つければいいという記事なので、ここで全体を論じる必要はない。桑原三郎「真っ直ぐが駄目なら曲がる」が、ちょっと発想を変えてみる、ということで、おもしろいです。
【初案】老人の一日元気さるすべり
【成案】老人のときどき元気さるすべり
なるほど、と。
推敲の分野として、字句の並びを換えるなど表現の調整から、上記のような発想の方向転換まで、さまざまあろうが、「おす」か「たたく」かという検討は、どちらかといえば後者、すなわち、句の成り立ちをちょっと換えてみることのような気がしてきた。
というのは、たくさんの例が示されているのだが、字句の並びや表現を変えて、見違えるようによくなるという例はほとんどない(まったく、といってくらいに、ない)。いじるまえに捨てるべき句がたくさんあるということだろう。推敲についての特集記事から副次的に、「推敲せずに捨てよ」と教訓も、個人的には得た。
余談だが、たくさんの著者の経験と工夫を集めたこの特集、それぞれのノウハウを整理してまとめれば、俳句入門書の「推敲」の章が出来上がりそうです(良い子はそんなことしてはいけません)。
●入門特集・スポーツを詠む面白さと難しさ p112-
6氏が2pずつテーマに添って語る。いくつもの掲句があるが、めぼしい句(句としてりっぱに成立していると思う句)は、山口誓子の数句(スケートの紐むすぶ間も逸りつゝ他)と能村登四郎(春ひとり槍投げて槍に歩み寄る)くらいで、それを複数著者が挙げている。
スポーツの句をものにするのは、つまり難しいことなのだ、と思った。入門と銘打つには、ハードルの高い分野(ハードルと、ちょっと、しょうもなく洒落てみました)。
余談だが、鴇田智哉氏とスポーツとは、その作風からしても、どうしても結びつきにくい。あえてという人選か。
スポーツとか、花とか、いわゆる題材というものは、作品の「きっかけ」である。きっかけだからこそ、結果としての作品は思わぬところに行き着く可能性もある。(鴇田智哉「きっかけと結果」)
きわめて根本的な事柄、場違いなほど重大なことを語って、論を締めている。この部分はとりわけ「入門」にはそぐわず、示唆に富む。気が進まなくてもとりあえず読んでみれば、成果が見つかることがあるものです。
●現代俳句時評 第10回 成熟と試行について 藤原龍一郎 p136-
八木忠栄句集『身体論』および武井清子第一句集『風の忘るる』を扱い、とりわけ後者について多く紙幅を割く。
武井清子さんは小誌前号(週刊俳句第75号)に10句作品(すばらしい10句作品)をお寄せいただいた。
当時評は、『身体論』を成熟、『風の忘るる』を試行、と位置づけている。私は『風の忘るる』を拝読、『身体論』はこの記事に掲げられた句を読むのみ。その範囲で言うが、この対照は、どうもあまりしっくりこない。どうしっくりこないかは説明がむずかしい。興味を持たれた方は、『俳句』10月号の当該記事をどうぞ。
●『俳句』添削教室 伊藤伊那男 p196
特集が「推敲」なので、レギュラーの添削も取り上げてみます。
【原句】ぬきんでてしずかなるかな花人参
【添削】ぬきんでてしかもしづかに花人参
え? 「しかも」? ほんとうにいいんでしょうか? その添削(笑。
なお、伊藤氏のほかの添削は充分納得の行くものであり、説明も懇切丁寧、心優しい口調、好感のもてる記事であることをお断りしておきます。
(伊藤氏は、きっと、「しかも」への添削を後悔しておられるのではないか、と。はい、勝手に憶測)
*
自分がやれば推敲、他人がやれば添削。分類はこれでいいのだろうか。まあ、間違っていたとしても、それはそれとして、句会のさなか、添削や推敲の局面があらわれるときがある。先生的な立場の人のいる句会では、その人の添削が指針になり、一方、気のおけない仲間同士の句会では、合評のなかで「ああしろそうしろ」「こうしたら良くなる」とアドバイスが飛び交うことがある。これも、俳句の楽しみのひとつ。
一方、一度つくった句を、自分ひとり、ああでもないこうでもない、捨てようか、捨てるには惜しいと、いじくって過ごす時間を、俳句愛好者なら誰でもお持ちだろう。これも楽しい。
俳句は、(自分にとっての)決定稿ができるまで、こうして、ないアタマをひねり、他人の手を借り、ずいぶんいろいろと楽しめるものです。
と、ポジティブに締めておきます。
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2008-10-05
『俳句』2008年10月号を読む さいばら天気
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