2008-11-30

林田紀音夫全句集拾読 046 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
046




野口 裕






念仏の月旦映える水溜り
納経の雨びしょびしょと壁まれ

形代の鈴なりの揺れ夕べの梢

念佛の影を消されて日が終わる
はるばると経木を抱いた雨やどり

昭和四十九年、「海程」発表句。仏教習俗に題材を求めた句。このあたりから、妙に多くなってくる。この中では三句目が印象鮮明。


陸橋の弧のはるばると神隠し

耳鳴りの刀槍の闇近くなる

人買いの残照の道眼にのこす

昭和四十九年、「海程」発表句。仏教習俗句と併存して、空想的・幻想的な句がちりばめられている。二句目の「刀槍」は、ひょっとすると戦争体験かとも考えられるが、時代をそこに限定するのは無理だろう。一句目の「神隠し」、三句目の「人買い」ともども、時代を遙かに遡ったところを想像しての言葉と受け取るのが自然。

神隠しが、日常用語だった時代は、遙か昔。昭和三十年代、日が落ちてからも遊んでいる子供がいると、大人達は「子取り」が来るぞと脅していた。昭和四十年代に、そんな言葉はあっという間に聞かなくなった。銭湯で絞ったタオルをパンと振るえば、人の首を刎ねる音を連想するからやめとけと言われたことも同様に消滅。

死語になった言葉を意識的に駆使したのだろう。



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