〔週俳10月の俳句を読む〕
鈴木茂雄
歴史か、嘱目か
砂浜に舟の擦りあと雁渡る 馬場龍吉
「天高くいざ鎌倉へ遅れたり」から「衣ずれも律の調べのなかにかな」まで、不思議な透明感のある作品が並ぶ。この『いざ鎌倉』は連作として意図されたものだろうか、それとも東国武士が「いざ鎌倉」というときに馳せ参じたと言われる道、古道としての鎌倉街道を吟行した折の作品だろうか。つまり、歴史に題材を求めたものか、それとも嘱目吟か。いずれにしても「いざ鎌倉」10句はその両者が作者の中で渾然一体となって出来上がったものに違いないが、なかでも揚句は群を抜いて上手い。一句一句に物語の一場面を静かに展開させているが、この「砂浜」の場面はとくに印象鮮明だ。ことに「舟の擦りあと」にはなんとも言えない美しい響きがある。「鎌倉」や「実朝」を知らずとも鑑賞出来るからだろう。「舟の擦りあと」につづく季語「雁渡る」がいやでも読者を遠い世界へと誘ってくれる。眼前に広がる空間としての風景とその背後にある時間としての風景の表出を試みた、一句独立の作品として感銘したのは断るまでもないが、「いざ鎌倉」という言葉の由来を知るとさらに作品の世界が広がるのも事実ということも付け加えておきたい。「狐のかみそり主従はここに祀らるる」も印象深い作品だった。
そのほかにつぎの作品が印象に残りました。
豊年や鳥のはばたく切手貼る 加藤光彦
割引券ばかりの財布豊の秋 三村凌霄
秋の暮カレーに膜の張りにけり 小野あらら
鳥の眼のなかのカンナを切りにゆく 鳥居真里子
■ 高山れおな 共に憐れむ 詩経「秦風」によせて 10句 →読む■ 越智友亮 たましひ 10句 →読む■ 馬場龍吉 いざ鎌倉 10句 →読む■ 福田若之 海鳴 8句 →読む■ 加藤光彦 鳥の切手 8句 →読む■ 三村凌霄 艦橋 8句 →読む■ 小野あらら カレーの膜 8句 →読む■ 鳥居真里子 月の義足 10句 →読む
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鈴木茂雄
歴史か、嘱目か
砂浜に舟の擦りあと雁渡る 馬場龍吉
「天高くいざ鎌倉へ遅れたり」から「衣ずれも律の調べのなかにかな」まで、不思議な透明感のある作品が並ぶ。この『いざ鎌倉』は連作として意図されたものだろうか、それとも東国武士が「いざ鎌倉」というときに馳せ参じたと言われる道、古道としての鎌倉街道を吟行した折の作品だろうか。つまり、歴史に題材を求めたものか、それとも嘱目吟か。いずれにしても「いざ鎌倉」10句はその両者が作者の中で渾然一体となって出来上がったものに違いないが、なかでも揚句は群を抜いて上手い。一句一句に物語の一場面を静かに展開させているが、この「砂浜」の場面はとくに印象鮮明だ。ことに「舟の擦りあと」にはなんとも言えない美しい響きがある。「鎌倉」や「実朝」を知らずとも鑑賞出来るからだろう。「舟の擦りあと」につづく季語「雁渡る」がいやでも読者を遠い世界へと誘ってくれる。眼前に広がる空間としての風景とその背後にある時間としての風景の表出を試みた、一句独立の作品として感銘したのは断るまでもないが、「いざ鎌倉」という言葉の由来を知るとさらに作品の世界が広がるのも事実ということも付け加えておきたい。「狐のかみそり主従はここに祀らるる」も印象深い作品だった。
そのほかにつぎの作品が印象に残りました。
豊年や鳥のはばたく切手貼る 加藤光彦
割引券ばかりの財布豊の秋 三村凌霄
秋の暮カレーに膜の張りにけり 小野あらら
鳥の眼のなかのカンナを切りにゆく 鳥居真里子
■ 高山れおな 共に憐れむ 詩経「秦風」によせて 10句 →読む■ 越智友亮 たましひ 10句 →読む■ 馬場龍吉 いざ鎌倉 10句 →読む■ 福田若之 海鳴 8句 →読む■ 加藤光彦 鳥の切手 8句 →読む■ 三村凌霄 艦橋 8句 →読む■ 小野あらら カレーの膜 8句 →読む■ 鳥居真里子 月の義足 10句 →読む
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