〔週俳11月の俳句を読む〕
米男
十二月九日がやってくる
寺澤一雄「行雁~アメリカ雑詠」を読む
今年もまた、十二月九日(日本時間)がやってくる。
その日、一体何をやってたのか、もう記憶が定かではないが、西向きの二
階部屋の窓の外の夕空には閉じ括弧みたいな細い月が浮かんでいたのをひ
どく鮮明に覚えている。
あの日、テレビのない部屋に訪れた友人の第一声は、「ジョン・レノンが
死んだ」だった。それはどこかフィクションじみた言葉であり、単に右の
耳から左の耳へと流れていった記号のようでもあった。
行雁のすぐに頭の上を越え 寺澤一雄(以下同)
句の主眼である「すぐに」が実に巧みである。「すぐに」があることによって、それ以前の時間の長さ(待っている時間)が認識できるのである。そして、言い表されていない次の「すぐに」で雁の群は点になり消えてゆくのである。
その後の事は、あまり覚えていない。ただFENから繰返し垂れ流される「ジョン・レノン」「ダコタ」「チャップマン」「シューテイング」という単語だけを聞きながら一晩中膝を抱えてたような気がする。
よく日からのメディアの加熱振りは台本のようで、昨日までジョンの「ジ」の字も語らなかったテクノファンの娘らまでが涙してる姿は松竹新喜劇(藤山寛美在)を見ているようでもあった。一言でいえば『しらけてしまった』のであろう、必然として、その件には一切触れなくなった。
草原の枯れて激しく晴るる空
「激しく」という措辞がやけに印象的な一句である。晴れる空という普遍の清々しさが枯れた草原に込められた寂寥感を二倍にも三倍にも増幅させる。この景は朝でなければならない。朝になって初めて光ある元で枯れたを認識し、そしてようやく涙が出るくらいの悲しみを覚えるのである。作者の目前にひろがる草原の大きさこそがアメリカそのものであるとしか言いようがない。
今年もまた、十二月九日(日本時間)がやってくる。ふと、いまだにあの悲しみを消化しきれない自分が哀れになってきた。
"Our life together is so precious together,
We have grown we have grown" from "Starting Over"
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2008-12-07
〔週俳11月の俳句を読む〕米男 十二月九日がやってくる
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