2008-12-07

〔週俳11月の俳句を読む〕西村薫 狐に化かされて

〔週俳11月の俳句を読む〕
西村 薫
狐に化かされて



燭台の足跡残る卯月かな     小野裕三
水無月の扉のような同級生

卯月の由来は「卯の花月」を略したもの、が定説となっているが
十二支の4番目が卯であることから「卯月」とする説もある
とすると「燭台の足跡」がうさぎの足跡のようにも思えてくる

諸説あるが、水無月は水が無い月ではなく「水の月」という意味
水無月、扉、同級生に類似や共通を見つけることができないが
「水無月の扉のような」同級生だと言われると感覚的に納得するしかない
比喩から容易に類推できるようでは詩としての快感は得られないのだから


村芝居大きな月も顔を出し     長嶺千晶
血統のかなしさのあり馬肥ゆる
滑空の鳩黄落のはじまりぬ 

村芝居に興じる農民たちに「大きな月も顔を出し」ている
押しつけがましくない素朴な日本の原風景がここにある

ヒラリー・クリントン氏は「私は生まれつきのファーストレディーでも上院議員でもない」
と自伝に書いているが、「競馬はブラッドスポーツ」といわれるように
サラブレッドであることが重要だ
「滑空の鳩」と「黄落のはじまりぬ」に因果関係がない
この断絶が詩を生む


こすもすをはなるるゆらぐことありて   中山宙虫
とうきびの刈られて青い封書くる

風に揺れているコスモスと心のゆらぎが呼応して、
思わず、コスモスから離れようとする
ひらがな表示が効果的だ

唐黍の刈られて青空が広がった
「青い封書くる」が詩的で巧みだ


老獪の白い芒になりすます    八田木枯
ふくとじる馬鹿をみるのはいやどつせ

「老」のつく作品だが、とてもエスプリが効いていてオシャレな句だ
「なりすます」は照れ隠しだろう

はぐらかしたような「いやどつせ」が深刻にならなくていい
あら何ともなやきのふは過てふくと汁    松尾芭蕉
芭蕉も「あら何ともなや」 とおどけてみせている


トレーラーハウス炎上冬近し    寺澤一雄
草原の枯れて激しく晴るる空

都が炎上したのは
いつせいに柱の燃ゆる都かな   三橋敏雄
この句はトレーラーハウス(車輪のついたプレハブ住宅のこと)
配する季語は「冬近し」
配合に、衝撃力がある

枯野原と青空の二つの描写の衝撃が詩に昇華している  


ぶきつちよに飛ぶ轡虫おまへもか   中西夕紀
光琳の兎も見えて冬の月

カエサルの「ブルータス、お前もか」のパロディーと
ぶきっちょに飛ぶ轡虫に自己を投影していて面白い
「光琳の兎」を調べてみると、波兎蒔絵旅櫛笥に描かれた兎のようだ
謡曲『竹生島』の一節、
「月海上に浮かんでは兎も波を走るか おもしろの島の景色や」に由来しているらしい
「兎」も冬の季語
美しい一句に仕上がっている


焚火してわが身邃古(すいこ)の果たてより   冨田拓也
寒月に射抜かれ襤褸(ぼろ)のごとき雲
霜降る夜歯車かたく噛み合ひぬ     
雪しまく夜を鏡の蔵(しま)はれし
大いなる顔(かんばせ)秘むる枯野原
いくつもの斧をねむらせ雪の山

誤読を怖れずにいうと、エロティックな要素を孕んだ作品群だ


昼顔や久しくわが血みてをらず    谷さやん

カトリーヌ・ドヌーヴの『昼顔』を連想したせいか
「久しくわが血みてをらず」の血ってなんだろうと思ってしまう


ぼろぼろの幾何学原論と冬ごもり     斉田 仁
名誉教授の愛せし冬の金魚かな

ユークリッドの幾何学と冬ごもりしている光景を想像して
次の句にも数学者のイメージを引きずってしまったのだが
『博士の愛した数式』の博士と冬の金魚のイメージが結びついた
小説にその描写はないのだけれど、、、


狐見て着物の裾の合はざりし     大石雄鬼

暗夜を彷徨っていて美女に化けた狐に騙されたのだろう
見てはいけない、してはいけないという禁忌の意識が
「着物の裾の合はざりし」というフレーズを生んだのだろう



小野裕三 医大方面 10句 ≫読む
長嶺千晶 大きな月 10句 ≫読む
中山宙虫  ゆらぎ 10句  ≫読む
八田木枯 夜の底ひに 10句  読む
寺澤一雄 行 雁 アメリカ雑詠 10句  読む
中西夕紀 夢 10句  ≫読む
冨田拓也 冬の貌 10句  ≫読む
谷さやん 献 花 10句  ≫読む
斉田 仁 なんだかんだ 10句  ≫読む
大石雄鬼 狐来る 10句  ≫読む

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