海の触手 中村安伸
剣豪の背中の谷へ春の雪
ものの芽のものを離れぬ行書かな
飛ばされるやうに抱かれし雛祭
あめつちにあまねく妻や花粉症
真つ青な闇降るなかを遍路かな
空舐めてみるたんぽぽの低さより
死を言へば仔鹿ゆつくり呑みこめり
光陰の結び目として白つつじ
全体が背を向けてゐる薔薇の木よ
六月の空より拾ふ活字かな
ペリカンの内側をゆく初夏の街
紫陽花のかたちに微熱ありにけり
油絵の夜景を飾り梅雨となる
梅雨空や未来と違ふ地図を描く
星条旗の青い部分を昼寝かな
水色の足りない午後を心太
シャワーカーテンが好きシャワーは嫌ひなり
夏芝居青き空気を沈めをり
母の日の鯨の中にネットカフェ
爆発を待つ飴色の香水壜
紅葉狩喪服の列を追ひ抜いて
秋空の刃物に残る炎かな
振袖といふ双翼で着地せり
正面にヌードの火山冬うらら
イタリアの雪を食べたき炬燵かな
猫といふ受話器を膝に山眠る
日輪よ臓は腑を産む冬の海
大寒の海の触手にはこばるゝ
枯園は気泡ガラスの向かふなり
綿虫やつきたての嘘あたたかし
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2008-12-21
中村安伸 海の触手30句テキスト
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