〔週俳12月の俳句を読む〕
相子智恵
その土の下には
月光が吐く釘拾いしはわれならん 大本義幸
月光の冷たさは、釘ほどの冷たさ。月光の銀色は、釘の銀色。
月光のイメージは、いつしか釘という実物に転化し、
その釘を拾ったのは私である。
月と釘と私の関係は、哀しくて独善的で美しい。
ひとつの美しい俳句。美しい孤独。
〈月光が釘ざらざらと吐き出しぬ 八田木枯(*)に和して〉
月光が吐き出す釘を詠む人、その釘を拾ったのは私だと詠む人。
応答セヨ、と言われたわけじゃないのに、
その孤独に立ち止まった別の孤独な人が、電波を受信する。
哀しくて愉しい、一回かぎりの交信。
響きあうことを許しあう、ふたつの美しい俳句。
この俳句たちが、心底うらやましい。
●
家とサンタ同サイズなる聖菓かな 生駒大祐
サンドイッチマンかつサンタ歩み来る
ここにいるサンタは、どれもサンタじゃない。
どうして、こんなしょうもない、
薄っぺらのサンタもどきを見てしまうのでしょう。
そして私はどうして、こういう俳句が好きなのでしょう。
そしてお父さん、どうしてうちにはサンタがこないのでしょう。
●
しわしわの鯨の耳骨冬木立 照井 翠
鯨にも、耳がある。そういえば、そうである。
気になるので調べてみた。
鯨の耳は単なる直径2mm程度の穴であり、
耳垢がつまっているらしい。骨伝導するらしい。
死んだ鯨の耳の骨は、大きいのだろうか。
しわしわのその耳の骨には、海よりも冬木が似合う。
地面には落葉が堆積していて、その土の下には、
鯨の耳の骨が化石となって累々と埋まっている、のかもしれない。
土の下のことは、知らないけど。
そこがかつて海だったのかも、知らないけど。
●
来てみれば座布団厚き冬の宿 上田信治
「来てみれば」というほどの、別段、客に期待も抱かせない宿。
ふかふかで、四隅の房も妙に立派な座布団は、
きっと見どころの少ない冬の宿の、絶景である。
絶景の温泉宿である。いや、温泉宿の絶景である。
12チャンネルの旅番組に出したい座布団である。
2009-01-11
〔週俳12月の俳句を読む〕相子智恵 その土の下には
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