2009-01-04

成分表24 鏡餅  上田信治

成分表24 鏡餅  上田信治

初出:『里』2008年1月号


たたえよ、鏡餅。

かつて、どれだけの子供の年賀状に、鏡餅が描かれたことだろう。だれにでも再現できる、すばらしい形式。それは、まるで俳句のようだ。

そも、大小ふたつの餅を重ねるとは、いかなる霊感によるものか。

神鏡にたとえられるめでたく丸いあの餅は、横から見ると、あまりにも平べったく地上的な姿をしている。はじめて、あの餅を一枚、神に供した先駆者は、見た目イマイチだな、と思ったことだろう。

しかし、その餅ふたつを重ねた時。あらわれるのは、上から見ても横から見てもおめでたい、宗教的な形象である。

キリスト教に聖十字があるように、お正月には鏡餅がある。

餅は、やわらかく、均質で、本来特定の形状をもたない。全にして一、すべての餅がひとつの餅の一部であり、しかも白い。人間のたましいを食べものに喩えるとしたら、なによりふさわしいものは、餅だろう。

鏡餅の起源は、室町時代にさかのぼる。正月、武家において、鎧や兜といった具足を飾るさい、その前に餅を供えた風習がはじまりである、と歳時記に書いてあった。

自分は想像する。武家社会に出入りを許された新興階級の人々にとって、その餅がどれだけ格好よかったか。イケていたか。

そして今や、餅こそ、正月を生きるわれらのトーテム。

初期の鏡餅は、上が紅、下が白のツートーンであったり、三段重ねであったりしたらしい。今でも、そのスタイルの鏡餅は、一部の地方や神社に残っている。もし、そのうちのどれかがスタンダードとして定着していたら、鏡餅というものは、それほどすばらしくもなかった。

鏡餅。配置と構図が、そのすばらしさの全て。

てっぺんの蜜柑も、よく載せたものだ。海老は、まあ、やり過ぎである。


  正月を出して見せうぞ鏡餅  去来



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