成分表24 鏡餅 上田信治
初出:『里』2008年1月号
たたえよ、鏡餅。
かつて、どれだけの子供の年賀状に、鏡餅が描かれたことだろう。だれにでも再現できる、すばらしい形式。それは、まるで俳句のようだ。
そも、大小ふたつの餅を重ねるとは、いかなる霊感によるものか。
神鏡にたとえられるめでたく丸いあの餅は、横から見ると、あまりにも平べったく地上的な姿をしている。はじめて、あの餅を一枚、神に供した先駆者は、見た目イマイチだな、と思ったことだろう。
しかし、その餅ふたつを重ねた時。あらわれるのは、上から見ても横から見てもおめでたい、宗教的な形象である。
キリスト教に聖十字があるように、お正月には鏡餅がある。
餅は、やわらかく、均質で、本来特定の形状をもたない。全にして一、すべての餅がひとつの餅の一部であり、しかも白い。人間のたましいを食べものに喩えるとしたら、なによりふさわしいものは、餅だろう。
鏡餅の起源は、室町時代にさかのぼる。正月、武家において、鎧や兜といった具足を飾るさい、その前に餅を供えた風習がはじまりである、と歳時記に書いてあった。
自分は想像する。武家社会に出入りを許された新興階級の人々にとって、その餅がどれだけ格好よかったか。イケていたか。
そして今や、餅こそ、正月を生きるわれらのトーテム。
初期の鏡餅は、上が紅、下が白のツートーンであったり、三段重ねであったりしたらしい。今でも、そのスタイルの鏡餅は、一部の地方や神社に残っている。もし、そのうちのどれかがスタンダードとして定着していたら、鏡餅というものは、それほどすばらしくもなかった。
鏡餅。配置と構図が、そのすばらしさの全て。
てっぺんの蜜柑も、よく載せたものだ。海老は、まあ、やり過ぎである。
正月を出して見せうぞ鏡餅 去来
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2009-01-04
成分表24 鏡餅 上田信治
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