2009-02-01

短い会話(俳句のこと) 佐藤文香

短い会話(俳句のこと)

佐藤文香


「吟行のときって、そのあと句会があるのがふつうだから、そのとき見たもの使ったりして、すぐに作らなくちゃいけないんですよね、俳句を。」

私は、あんまり俳句には詳しくないという編集者さんに言った。
彼女はすぐに、
「それって、刺身みたいですね。」
と言った。

「刺身?」
「だってほら、新鮮な素材をそのまま切って出すみたいな。」

なるほど。だとすると、吟行って、漁か。
「煮炊きする暇ない、ですからね。」

みんな似たような素材を厚く切ったり薄く切ったり、盛り付け方や皿に凝ったりして、どうにか買ってもらえるようにがんばる。もちろん、句会で。

私は付け加えて、
「たまにね、昨日のおかずの残りを出すような人もいるんですけどね。」
と言った。そういう句、点が入ったりする。吟行句では、ないんだけどね。そういえば、吟行地の下見をする人もいるらしい。素材を先に仕入れて考えとくってことか。

「それって、昆布じめみたいですね。」
と、彼女は言った。

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