2009-02-01

B.U.CAST 松野ひかる

B.U.CAST

松野ひかる



最近、キャスト・エクアというものを購入した。

それがこの写真。大きさは手の平サイズ。











なんとも可愛らしくてちょっとかっこいいオブジェ。

そうでもないとな?

まあ、最後まで聞いておくんなまし。

この形、惑星とその輪をモチーフにしたそうで、真ん中の丸っこいものをくるくると自転するように回すことができる。


実はこのキャスト・エクアはただのオブジェではなく、知恵の輪。

真ん中の丸っこいものは2つのパーツからできていて、ばらばらに分解することができる。キャストパズルというシリーズの、現時点での最新作。


昔からパズルや知恵の輪が好きで、このキャストパズルのシリーズもいくつか持っている。

知恵の輪というものは、ただそこにあるだけで、謎を秘めている。そんな、魅力的な存在。しかもキャストパズルはただ置いておくだけでもなんとなく様になる。けれどもやっぱり、そこに謎があると知れば、手にとって動かしてみないと。

金属のパーツ同士が絡み合っていたり、あるいはがっちりと噛み合っていたりするのを、ぎちぎちと動かすのが何とも楽しい。知恵の輪をぎちぎちと動かしていると、「するっ」を感じることがある。この「するっ」もまた、知恵の輪の魅力の一つ。


「するっ」はパーツ同士が、思いがけず、思わぬ方向に抵抗無く動く時に現れる。「するっ」が起こると、知恵の輪全体の形が大きく変化する。しかもそれはほとんどの場合、正解への道筋にある。だからこそ、たまらなく快感。


久々に買ったキャストパズルシリーズ・エクアをぎちぎちと動かし、この「するっ」を感じたとき、気付いた。この「するっ」を、俳句でも感じたことがある、と。


それは句会で「いい評」を聞いたとき。

自分では何でもないと思った句や、わけがわからないと思った句。その句を選んだ人が、選んだ理由を語る。この句のこんなところがいい。季語がこう効いている。など。

そういう評を聞いて、なるほど、と思う。そういう見方があったか。そう言われるといい句だなあ。

自分が見ていた句が大きく形を変え、そこに発見がある。視界が開け、脳がクリアになる。

この感覚が、知恵の輪における「するっ」ととてもよく似ている。


きっと、私たちは多くの場合、目の前の句をオブジェとして眺めているだけなのだ。つまらなく見えることも、特に何とも思わないこともある。だけどその句を眺めるだけでなく、手にとって動かしてみたらどうだろう。もしかしたら「するっ」を感じて、とてもいい句に思えるかもしれない。

例えば「流れ行く大根の葉の速さかな」。


大根の葉が流れていきました。速かったです。という、ただそれだけの句。いやいや、だがしかし、と思い直す。ぎちぎち。するっ。そうだ、作者は気付いたのだ。流れていくのは速いんだなあと。

地中から生えているときには、風に吹かれてもその場でただもさもさと揺れるだけの大根の葉。それが切られ、水に流されると、あっという間に目の前から消え、どんどん遠ざかっていく。なんだか不思議。大根の葉って不思議。そうか、大根の葉が流れるのが速いのは当たり前じゃなかったんだね。なんで?なんでそこに気付いたの?作者、繊細。何ていう人?高濱虚子?すげえよ高濱虚子!


とまあ、こんな風に。


俳句と知恵の輪は似ている。だから私は敢えてこう言おう。



俳句というものは、ただそこにあるだけで、謎を秘めている。

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