2009-03-22

五句テキスト03

桜並木  仲 寒蝉


スランプの一本桜並木かな

花を見ず花見の客を見てゐたり

また同じ橋を渡りぬ桜狩

しんじつの闇食ひ尽くす花の闇

人の世のにほひ集めてする花見



今年の桜の開花は例年よりかなり早くなりそうだ。花=桜とした古人には敬意を表するが、桜に日本の象徴や日本人の心性を負わせ過ぎると胡散臭くなる。私にとって桜は入学や落第の季節を明るく照らしてくれる背景である。今年次男が大学入試に挑戦していて、三〇年前の自分を厭でも思い出す。あの入試に失敗した日、成功した日、どんな思いで桜を見たんだったっけ。
実は現在私の頭を占めているのはもう一つの受験。東北信という長野県の一地区で働く糖尿病専門の医療スタッフを地域で育てるため三月二十二日に認定試験を行う。書類審査やレポートの採点、入試問題作りと苦労した。あとは試験が終了し第1期生が誕生するのを見守るのみ。何人に桜が咲くだろうか。

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霞をたどる  鴇田智哉


つちふれり長い話のをはるころ

腕組をしてゐる人に春の鳩

春めくと枝にあたつてから気づく

卒業の木々の匂ひのただよへる

鍵を抜き霞をたどる旅へゆく



もといたところから別れて、新しいところへ出ていく。卒業とかがそうだ。
気持ちがそわそわする。
それはだいたい三月だったから、今でも三月になると、そわそわしていることがある。
何も別れなどないのに、そうなのだ。

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穴   津田このみ


春分の日の吐く息を細長く

口という穴覗かれて三鬼の忌

母のこと父にまかせて桃の花

前世の悪ろき行ない花粉症

春の夜へ押し出すカヌーとは棺



年々縮小傾向にあると喜んでいた花粉症が、今年はどうもキツイ。特にこの数日がひどい。ひどい最中の三連休、帰省も兼ねて夫と車で関西に帰ることにした。鼻づまりと目のかゆみ、瞼が重く目が開かない。ぼ~~~っ。
そして俳句の締め切り。「実は・・・俳句全然できてないねん…」「へ?」(専業主婦である君には時間がたんまりあるよね、という彼のつぶやきが聞こえた気が。)「何句出すの?」「五句」「五個やろ?」「え?」「すぐ出来るやん~」「は?」「だってたった五個やん」「………」
五個って、五個って……。
忘れていたが、こういったやり取りは今まで数知れず。嗚呼目がかゆい。

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骨  茅根知子


遠足は光の列が進みけり

てのひらの魚の匂ひや春の雷

野遊びの始まつてゐる膝頭

春雨や石を拾へば骨に似て

タクシーの窓を流るる朧かな



自分が着ぐるみだったら、どんなに楽しいだろう。誰もいない部屋でこっそり脱いで、本当の声を聞き、肉眼で顔を見て、持ち上げてみる。くぐもった声、平べったい顔、ぐにゃぐにゃした重さを確かめてみる。晴れた日には洗濯をして、ついでに背中の綻びを繕っておく。きれいになった着ぐるみを着た私は、日の匂いのするその中で眠くなる。

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