無 題 谷口智行
ひとり覚めゐてきさらぎを口にせり
無名氏をよそほひあひてよなぐもり
這うてでも春満月の夜に逢はむ
もつ鍋に浸かる袖口活け桜
まんなかのはしつこあたりさねおぼろ
近況
ワープロは昔からやっていたが、パソコンはなじめず頑なに拒絶してきた、はずだった。しかし携帯メールにはじまり、電子カルテ、レントゲンやエコーの画像処理、オンライン請求など、仕事上でも否が応でも電子化に関わらざるを得なくなった。今頃こんなことを書いていると、「週刊俳句」の皆さんに笑われてしまうだろうが、僕の近況ならこんなところだ。
目が乾く、肩がこる。嗚呼、またあの娘からの長いメールだ。
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春風駘蕩区 佐山哲郎
梅ちらりほらりどの子も器量良し
また春が来て腰低くなりにけり
ひこばゆるいはゆるおばかさんの候
ブランコ漕ぐページを捲るやうに漕ぐ
レプリカの巨鯨匂へり花の雨
それ天地は万物の逆旅にして光陰は百代の過客。如何に駘蕩といへどむかし下谷区浅草区。地に縛されてかれこれ六十有余年と相成りし身をつらつら思へば、週刊俳句偉いぞ偉いぞ。祝して述ぶれば、華は開く稀有の色、波は揚ぐ実相の音。そもさんか霊供の一句、愛楽仏法味、禅三昧為食。此処になむ烏鷺坊敬つて白す。
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石 神野紗希
海原の鯨の夢に我立ちぬ
赤きもの汝がジャケットと鳩の眼と
ロボットにマフラーを巻く女の子
遺失物係も兼ねて駅長は
石いつも受身なりけり春の風
ベルリンの壁が崩壊したのは、私が五歳のときだった。記憶は殆どない。物心ついた頃の世界地図には、ドイツに西も東もなかった。ただ一つ覚えているのは、父の友人が、海外旅行のお土産に、ベルリンの壁の欠片をくれたことだ。簡単なビニール袋に入っていたそれは、何の変哲もないただの石だったが、肌に一筋、くすんだグリーンが走っていた。私は、落書の一部だと思った。テレビで見た壁に、落書きがあった気がしたのだ。ベルリンに行ったこともなく、ベルリンの壁が存在していたことすら知らない私が、その石を壁の欠片だと信じることができたのは、一筋のグリーンがあったからだと思う。 手元の石が、本当にベルリンの壁だったかわからないし、確かめようがない。綺麗な宝石箱に入っていたって、証明書がついていたって、同じことだ。でも、あのとき私は、本物だと思った。石にリアリティがあったんだと思う。
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奈良市雑司町 小池康生
お水取見えぬところも東大寺
名優を待つかの如くお松明
お水取赤子に火の粉降りそそぎ
拾ひしは燃え滓なれどお松明
お松明二月三月四月堂
一〇〇号おめでとうございます。週刊俳句という〈場〉にはとても注目しています。これからも、淡々と大胆に面白い企画を続けてください。
三月は二度奈良に行きました。
八日は、銀化の面々と女人高野・室生寺吟行。集合場所に、中原主宰が登場するというサプライズ。界隈の長閑さというか、手付かずの田舎っぽさが良かったです。十日は、東大寺の修二会。昼間の〈食堂(じきどう)作法〉から覗き見、昼食の残りを投げる〈生飯(さば)〉も見、日中の業を局から拝見。その後、昼食を兼ねて奈良駅前の商店街を放浪。夜はまた二月堂へ戻り、お松明。そのあと、礼堂に入れていただき、夜間の業を間近に見ました。膝掛け持参。しかし寒かったです。二十二日は、『銀化』の仲間と京都嵐山吟行です。。
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2009-03-22
五句テキスト04
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