〔週俳7月の俳句を読む〕
麻里伊
血が通う
大盥箸浮き皿は沈み夏 藤田哲史
食事の跡のシンクに付け置かれた食器類ではない。大盥と言うのだから庭だろうか、キャンプ地であってもよくて、箸と皿の単純な組み合わせがそれっぽい。そう言えばこの句、「水」を使わず「浮き沈み」の浮力の違いを述べているだけで、「水」の存在を与えている。a音を多用した明るさと、軽快なリズム。夏が動かない。
肌色の箱庭となる灯かな 生駒大裕
嘘っぽさが箱庭たるゆえんだが、一応は自然に似せようとして作られたもの。灯を点けた時に現れる世界を「肌色」としたのが面白い。肌色ってどんな色?と言われると、範囲は広く明確ではないのだが、「肌色」という言葉そのものが生々しく響き、かえって人工的な箱庭に血が通ったとも言える。
箱庭はほとんど見なくなったが、近年、「箱庭療法」なるものがあると言うので驚いた。風流な日本のお遊びだったものが、欧州から形を変えて入って来て、現代の心理療法の一つになっているようだ。
更衣からだのどこか遅れをり 水内慶太
「からだのどこか」の「どこか」とはどこだろう? (えっ!まさか、あの)とちょっともどかしがる。そうだ、「更衣」って、もどかしいのだ。更衣して気分を新たにしたところで、身体の動きがまだ着衣にそぐわっていない。ぱりっと清々しい夏服だからこそ、身体の動きに敏感になり、どこかの部分が遅れを取ったような。誰もがどこかで感じていた「更衣」の感覚を捉えた。
瞬間移動洗濯機から青田まで 今井聖
たとえばだが、「炬燵出て歩いてゆけば嵐山 波多野爽波」のように書いてくればなー。ともあれ「瞬間移動」とわざわざ使ってあるところがミソなのだろう。SFのテレポートでもあるまい。(テレポートだとしたら、「ジュラ紀」ぐらい飛びたいし) とすれば、農家の軒下にある洗濯機、その目前に広がる青田とすればなんなく成立する。いや、目線だけでは面白くない。やはり洗う作業から目前の田作業への移動としたい。コマ落としのように忙しく働く姿も浮かんで来る。くるくる廻る機械作業場と波打つ緑の作業場、質感といい色といいまったく違う異次元…やっぱりこれは小さなテレポートだ。
■藤田哲史 飛行 10句 ≫読む
■生駒大佑 蝲蛄 10句 ≫読む
■瀬戸正洋 無学な五十五歳 10句 ≫読む
■今井 聖 瞬間移動 10句 ≫読む
■水内慶太 羊腸 10句 ≫読む
■大川ゆかり 星影 10句 ≫読む
■高澤良一 僧帽弁閉鎖不全再手術 10句 ≫読む
■山口珠央 海底 10句 ≫読む
■
2009-08-09
〔週俳7月の俳句を読む〕麻里伊 血が通う
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 comments:
コメントを投稿