2009-08-09

〔週俳7月の俳句を読む〕岡田由季 特別なふたりであるかのような

〔週俳7月の俳句を読む〕
岡田由季
特別なふたりであるかのような


夏痩の汝と我やめがねして  藤田哲史

少女と少年でもいいし、青年二人でも良い。「きみとぼく」や「あなたとわたし」ではなく、「汝と我」という文語的な表現がとられていることで、二人の人物やその関係に緊張感が高まっているように感じた。夏痩せて、眼鏡かけてといったごく普通の、特に美しくもないことを言っているのにもかかわらず、なにか特別なふたりであるかのような、もしくは特別だと思いたがっているような切羽つまった感情が存在するようで、切なく美しい感じを受けた。

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瞬間移動洗濯機から青田まで  今井 聖

洗濯機から瞬間移動というのは頷ける発想だ。雑多な色の洗濯物がぐわんぐわんと回っている様子は異世界へ運ぶパワーを秘めているようだし、洗濯機自体の細かな震えもどこかへ飛び立つ予兆のようだ。まず一昔前の洗濯機をイメージしたが、案外、昨今のドラム式で消音設計の洗濯機なども転送装置的かもしれない。

瞬間移動の着地先が青田であるのは、健全で明るい感じがする一方、俳人的な発想であるような気もするし、一筋縄ではいかないユーモアも感じた。

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蜻蜒くる術後おぼつかなき視野に  高澤良一

術後三日蜻蜒つるんで見せにけり


「僧帽弁閉鎖不全症」という難しい名前の病気について知識をもっていないが、大きな手術であろうし、再手術の「再」の字が重たい。その術後の麻酔の醒めかかった状態の視野に蜻蜒が飛び込んでくる。病院の窓から見える実景かもしれないが、どこか幻想的な感じもする。蜻蜒は三日目にはつるんで見せたという。抑制が効いた詠みぶりのなかに、蜻蜒の生命力に重なる作者の治癒への気力を感じた。

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百貨店地下三階の熱帯魚  山口珠央

地下三階の熱帯魚というのはすこし意外だった。私のイメージではデパートの観賞魚売場というのは、屋上に続く出口のあたりで少々うらぶれた感じで存在するか、あるいはわりと上階の玩具売場や文房具売場などのそばで、美しくディスプレイされ、親子連れの注目を浴びているかどちらかだった。しかしよく考えれば、都会の中で、デパートの地下三階というのは、なんとなく海の中に通じるイメージがあるのかもしれない。地下も三階になるとそれほど華やかな売り場のイメージはなく、静かで熱帯魚にとっては居心地がよさそうだ。海に潜るように静かに地階に下り、熱帯魚たちに会いにいきたくなった。




藤田哲史 飛行 10句 ≫読む
生駒大佑 蝲蛄 10句 ≫読む
瀬戸正洋 無学な五十五歳 10句 ≫読む
今井 聖 瞬間移動 10句 ≫読む
水内慶太 羊腸 10句 ≫読む
大川ゆかり 星影 10句 ≫読む
高澤良一 僧帽弁閉鎖不全再手術 10句 ≫読む
山口珠央 海底 10句 ≫読む

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