ことりと水 しなだしん
厩出しの朝の厩のこみあへる
雪形をとほくに風の天守閣
うぐひすや名もなく川のはじまれる
森の星とびはねてゐる雪間かな
落し角さがしてをれば雨となる
蜷のみち人居るみらい居ぬ未来
いそぎんちやく波を数へてゐたりけり
春水や合戦の丘いましづか
水張つて浅利の柄のうごきけり
さくらからさくらへ鳥のうらがへる
春の夜へことりと水の置かれけり
さくらちる夜の千枚通しかな
花虻の百葉箱をしらべをり
水うまる新緑はかぜととのへて
かがやきをひきまはしたる代田掻
栗駒の浮かぶしらかば青葉かな
雲ながれ来て石楠花のよごれけり
火口湖のみどりはふかし時鳥
十字架のとほくありたる麦の秋
そのさきへ戻つてをりし青葉木菟
けばだちをきはめ軽鳧のこ着水す
青田波寄せ来るあぜといふまるみ
夏蝶のむつみおちたる採掘場
とまりてもとびても金亀子さびし
日焼して海まつしろくありにけり
潮騒やあをあをと夜の雲の峯
蛭捨てて山ぎはに夜のにじみそむ
滴れる峪の極楽鳥花かな
夏の月よるに刺さつてゐたりけり
唐黍の置かれてくらき框かな
有の実をからだの水に移しけり
秋江やたすきのなかに赤ん坊
禁門を出づれば木の実しぐれかな
あきくさのどれもが空を吸うてゐし
つながつてゐる秋の蚊を打ちにけり
謝りし帰りの荒地野菊かな
さはやかに正一合をみたしけり
雁のこゑ空へ沈んでゆくごとし
藁塚の背丈そろつてゐて立てる
ゆく秋の窓をみがいて過ごしけり
保護色となりて焚火にちかよりぬ
浮寝鳥いちばん星へ流れきし
玉砂利のかはききりたる神渡し
煮凝のなかにも雨のけぶりゐし
堅炭の爆ぜて奇譚のつづきけり
ひとの名を呼ぶこゑつづきゐて寒し
雪と為るべく雪原に立ちゐたり
凍蝶の羽きらきらと氷点下
脱け殻となる寸前の雪ひとひら
鶴のこゑのみがひびきて地平線
●
2009-10-25
テキスト版 2009落選展 しなだしん ことりと水
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2 comments:
好きな句など。
さくらからさくらへ鳥のうらがへる
さくらちる夜の千枚通しかな
花虻の百葉箱をしらべをり
かがやきをひきまはしたる代田掻
青田波寄せ来るあぜといふまるみ
滴れる峪の極楽鳥花かな
あきくさのどれもが空を吸うてゐし
藁塚の背丈そろつてゐて立てる
煮凝のなかにも雨のけぶりゐし
堅炭の爆ぜて奇譚のつづきけり
ひとの名を呼ぶこゑつづきゐて寒し
さくらの二句の対照の面白さ。
全体にわたって,対象への丁寧な視線を感じます。「藁塚の」など,当たり前過ぎるほど当たり前なのに,改めて納得させられるところがあります。
季語に寄り添うように、語を斡旋する句、特に前半に印象的な句がありました。
厩出しの朝の厩のこみあへる
うぐひすや名もなく川のはじまれる
いそぎんちやく波を数へてゐたりけり
春水や合戦の丘いましづか
水張つて浅利の柄のうごきけり
花虻の百葉箱をしらべをり
水うまる新緑はかぜととのへて
雲ながれ来て石楠花のよごれけり
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