住 処 中嶋憲武
あたたかき夜のちりとり口開く
土筆煮て猫は二階に眠りをり
煙草火を押しつけて消す鳥曇
エイプリルフールの電子レンジかな
振りて出ぬ塩の瓶あり朝桜
入学の子の制服を脱がずをり
火を守るてのひらが来て春の霜
ぐらぐらと灌木抜かれ春の土
CocaColaと鏡に赤し春の朝
連翹や嘘をつく目のきらきらと
目つむりゐてさくらさくらのちらちらす
花の駅人にぶつかりひと待てり
切株にすこしかかりて花筵
明るかりさくらの咲いてゐるところ
山吹やすれ違ふとき身を斜に
たんぽぽの並びしダッグアウトかな
春の日や水を運びて水跳ねる
花の夜のてのひら灯すi-pod
散り初めて恋となりたる桜かな
健啖の女みてゐる日永かな
春日差しうごいて動く印刷機
菜の花の鉢や信用金庫前
節太き指のはたらく春日かな
夕東風や二階へ通す同窓生
春愁やときどき機械油差す
胃や腸やうごく音する朝寝かな
牡丹の芽喪服は見失ひやすし
いろいろとひとりドリブル楓の芽
日の当たる帽子の畝や百千鳥
渡れさうで渡れぬ春の小川かな
遅き日のせせらぎへ黒犬の鼻
日のくれの魚影の迅し蘆の角
春の蚊のもつれて花びら花びら
かたちよき野菜の売られ鳥帰る
レシートを栞としたり暮の春
やや長居したるとおもふ潮まねき
ドア開けてドアを取らるる春嵐
踏青の子の通せんぼ抜けられず
人の目につかぬ入口春の雨
一巻の終りの余白サイネリア
韮の葉の撓うて広き市場かな
レジ待ちの列を紋白蝶横切り
葱坊主雨のたのしき傘ひらく
石鹸玉住処を七つ替はりをり
ガードレールのひかりへ座り春落葉
リラ冷えや前足曲げしインド象
磨かれてひかる真鍮ヒヤシンス
春昼や鍵の壊れてゐるトイレ
筆圧のつよき一日フリージア
春眠のつむじひそかに渦を増し
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2009-10-25
テキスト版 2009落選展 中嶋憲武 住処
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3 comments:
連翹や嘘をつく目のきらきらと
ぎらぎらでは、いけない。屋内でも、いけない。連翹の咲いている時と場所。
ほんとのことを告げられるよりも愉しくワクワクするのはなぜなんでしょう? コケトリーにジェンダー的に反応(媚態にコロリとまいるオッサン)してしまったと言われれば返す言葉もありませんが。
好きな句や感想など。
あたたかき夜のちりとり口開く
ぐらぐらと灌木抜かれ春の土
春日差しうごいて動く印刷機
春愁やときどき機械油差す
レシートを栞としたり暮の春
筆圧のつよき一日フリージア
全編春と,思い切った50句。
しかし季は春と申せども,萌え出づる春万歳!という明るさはあまりなく。どこか隠微な,もったりとした,春が続く。でもその得体の知れなさが春の本体だろうと思います。根暗な春万歳,です。
菜の花の鉢や信用金庫前
時代を勘案すると、複雑な感慨を催す句。この信用金庫、つぶれなければよいが。
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