2009-11-01

〔週俳10月の俳句を読む〕対中いずみ ゴカンさんとマサキさん

〔週俳10月の俳句を読む〕
対中いずみ
ゴカンさんとマサキさん



『コスモス』 後閑達雄

後閑さんは今年、句集『卵』(ふらんす堂)を上梓された。剛速球でもなく変化球でもなくナックルボールのようなナチュラルな味わいの句集だった。

外人を風除けにして秋の街  後閑達雄

後閑さんは小柄な方なのだろうか。私は身長153㎝のちびなので、こういうことは実はよくある。外人に限らないけれど、前を行く大柄の方の後ろに付くと、すっぽりと隠れてしまう。なので、木枯吹きつのる時などは、格好の風除けになる。ささいなことなので句にしようとは思ったことがなかったけれども。句集『卵』には〈着ぶくれやみんな上向くエレベーター〉などもあった。エレベーターのような密室では他人の顔が至近距離にあってうろたえることがある。そんな密着度を避けるかのように、みんな上を向く。多分、いま通過中の階の数字を一斉に見ているのだろう。そんなに真剣に見るほどのものでも何でもないが、とりあえずお互いの顔をつきあわせるという事態からは逃れられる。そんな微妙な違和感をすくいとるのが上手い方だ。

二人前からの餃子や秋暑し  後閑達雄

餃子を食べたかったのに、餃子は二人前からの注文になるという。けっこうとほほな事態だ。だいたい一人前の皿には餃子が六個くらい乗っていようか。これでも一人には結構ヘビーだが、十二個くると思うと、私なら注文を諦める。世の中はお一人さまのためではなく、仲間でワイワイやるようにできているのだろうか。ああ、秋というのに暑くるしいことだ。

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『無題』 正木ゆう子

こちらは後閑さんよりずっと大胆。おおらかな太古の女神のようだ。そう思うのは〈太陽のうんこのやうに春の島〉とか〈揚雲雀空のまん中ここよここよ〉などからの印象だろう。そしてときどきぐっと心にしみこむ句もなされる。

ふゆのにじ冬野虹とは儚き名  正木ゆう子

今回の十句の掉尾にこの句を見つけてハッとした。冬野虹。そうほんとうに儚き名。冬野虹さんは作家で四ッ谷龍さんの奥様で、2002年2月に亡くなった。私はお目にかかったことはないが、ある日の「ゆう」の句会で田中裕明から訃報を聞いた。そのとき私の胸に届いたまぎれもない悼みの感情は、今も忘れられないでいる。

手元にある「むしめがね」№16は冬野虹さんの特集だ。句が掲載されている。

  鏡の上のやさしくて春の出棺
  秋草の草のいのちを踊るかな
  泣かないで丸餅三つ走ってゆく

鎌倉市の作詞コンクール優秀賞を受賞した作品も載っている。「あした りすに」というタイトルだ。

  りすに会ったむすめ
  かまくらの庭
  お寺の庭
  てぶくろを
  はずしてごらん

  はしる りす

  みあげた枝
  たかい梢に
  空は
  いま
  ちらばり

  新月のぬばたまの
  闇はうたう
  かまくらの
  鐘はひびく
  かねのね
  空へちりゆき
  星はもどるよ
  てぶくろを
  はずしてごらん
  あした

ふと何気なく「あした」と心に呟くときがある。そういうとき、「あした りすに」がワンフレーズになってつづいてくる。そんなことがときおりあるものだから、画面上で「冬野虹」という文字を目にして、はっとした。そしてそれが正木さんによって詠まれたことにもはっとした。四ッ谷龍さんはもちろんのことだけれど、田中裕明とか正木ゆう子さんとか、そういう人たちから聞く名前なのだ。冬野虹さんは。


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