〔新撰21の一句〕村上鞆彦の一句
男の子の部屋から……松本てふこ
父の日の夕暮れの木にのぼりけり 村上鞆彦
村上鞆彦の句には、男の子の部屋の匂いがする。日々育ち続ける自分の身体をもてあまし、時には自らその成長を抑えつけすらしてしまう、成長期の男の子。「若々しさの内に青年の屈折を秘めた」と評され、自在な句風の広がりを予感させながらも基本的には端正すぎるほど端正な彼の句の姿を見るにつけ、どうもその背後に微かな自傷の香りを嗅ぎ付けてしまいたくなるのだ。
この句が見せる父恋いの風景も、どこか痛ましい。現実の父親を嫌悪し目を背け、どこかにあると信じ憧れ続ける理想の父性を求めて木にのぼる少年の姿を包む暮色。遊びの時間はもう終わり、大人になる時間なのだ。木をのぼりきった彼はきっと、父親とそう変わらない男になっているのだろう。そんな、予測しうる絶望で自らの心身を痛めつけながらも、少年は気の済むまで架空の父を恋い続ける。
この句がもたらす優しくもうす暗い読後感をかみしめているうちに、もしかしたらこの句はものすごく巧妙かつ慎ましく作られた自慰についての一句なのかもしれない、とすら思えてきた。
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2010-01-31
〔新撰21の一句〕村上鞆彦の一句 松本てふこ
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