2010-01-17

〔新撰21の一句〕藤田哲史の一句 小川春休

〔新撰21の一句〕藤田哲史の一句
皮相の奥の年輪 ……小川春休  


西瓜食ふ婆ワンピース爺裸   藤田哲史

西瓜を食べる老夫婦のいでたちを述べただけのようなこの句に、強く心引かれたのは、一体何故だろうか。

西瓜を食するのは盛夏、もしくは残暑の厳しい頃。「夏の風物詩」ランキングでも集計してみればかなりの上位ランクインが見込まれる、馴染み深い食べ物である。そういえば、私自身にも、子供の頃西瓜の絵を配したベタな暑中見舞いを出した記憶がある。

婆のワンピースも、西瓜と併せて読めば、白っぽい明るい色の、風通しの良いものが想像される。爺の裸は〈夕涼みよくぞ男に生まれける〉(其角)といった風情か。

つまり、西瓜も、婆のワンピースも、爺の裸も、全然、何の変哲も無いのだ。この句の特筆すべき点は、この「何の変哲も無さ」加減にある。極端なまでの「何の変哲も無さ」が、その老夫婦が毎年毎年同じように(それこそ中年夫婦だったり若夫婦だったりする頃まで遡って)西瓜を食べてきたであろうこと、その永続性を、描かれた景の奥に重層的に感じさせるのである。

西瓜を食べる老夫婦のいでたちを坦々と叙した書き手の意図も、おそらくそこにあったのであろう。皮相の叙述に徹することで、その奥にあるものを、潔く読み手に委ねている。その腹のくくり方には、度胸というか、気迫のようなものを感じる。

『新撰21』収録の百句には、

秋風や汝の臍に何植ゑん

のような堂々たるエロティシズムの句あり、

鋤焼や花魁言葉ありんすをりんす

京極杞陽ばりの飄々とした句あり。表現の幅が広く緩急もあり、一読者として大変楽しませていただいた。

様々な文体を積極的に駆使し、今回の百句でもかなりの力量が窺えたが、これからどんな進化を遂げるか、気になる書き手の一人である。





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