〔新撰21の一句〕中村安伸の一句
ビューティフルピープル……興梠 隆
美しい僕が咥えている死鼠 中村安伸
ビューティフルピープル(http://
“美しい人たち(魅力的なルックスとパーソナリティをもつ人)”のための世界初のSNSを標榜。入会の可否は、入会希望者の顔写真やPRを見た既存会員の投票で決まる。その気になれば、大勢の美しいメンバー達が自分の美醜について判定してくれるわけだ。
運営者によると、会員数は世界で55万人。 入会確率は5人に1人の割合というから、逆に考えれば、応募者の8割(220万人)が「あなたは美しくない」という判定を受けたことになる。
中村安伸氏の百句、随所に多重的な読みを誘う仕掛けが施してあり、読み流すことをなかなか許してくれない。掲句は、百句の前半部の表題〈1.美し い僕(1995-2003)〉となった一句。当然この句にもダブルミーニングの言葉の企みがある。例えば「美しい」が〈僕〉に係るのか〈死鼠〉に係るのか で句の呈示する世界がまるで違ったものになってくる。
まず「〈美しい僕〉が咥えている死鼠」という素直に読み下す読み方。ナルシシズムゆえの戯れともとれるし、あるいは太宰の『人間失格』の道化を演じる主人公の姿を連想してもいいだろう。
もうひとつ「美しい(僕が咥えている)死鼠」と読むとどうなるか。死んだ鼠が美しいということは、それに対して「僕」自身は美しくないということだ。
昨夜までは狂ったように車輪を回していたハツカネズミが、今朝は檻の底で冷たくなっていた。
とても静かで白くて小さくて柔らかくて冷たくなった僕のネズミと、朝日が照らし出す僕の顔。
もしこの綺麗なネズミを口で咥えたら醜い顔の自分も美という属性を帯びることができるだろうか。
そうしたら、「僕」もビューティフルピープルの仲間に入れてもらえるだろうか。
仲間外れにしないでいてくれるのなら、ネズミでなくても何でも僕はためらわずに咥えてあげる——
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2010-01-24
〔新撰21の一句〕中村安伸の一句 興梠 隆
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