2010-01-17

〔新撰21の一句〕谷雄介の一句 仲寒蝉

〔新撰21の一句〕谷雄介の一句
ユースケの時間 ……仲 寒蝉 


春のくれ馬糞は馬を離れけり  谷雄介

飯田哲弘の小論『自堕落俳人』が秀逸である(『新撰21』収録)。もともと田舎から出てきた真面目な優等生であった谷雄介が、俳句という魔物と出会ったばかりにおちゃらけたユースケに変身していく様子が克明に描かれている。

文香にせよユースケにせよ自分を、ひいては自分の俳句を変えようとの努力は賞賛に値する。さて面白い句は山ほどあるのだが、彼特有のとぼけた味わいのこの句を選んだ。

東京へ出てきた三四郎のように、ユースケの中を流れる時間はまだ都会の生活のそれと微妙にずれている。そのことが彼の俳句に余裕とも取れる鷹揚さを付与しているのだ。

馬糞が馬の肛門を離れて地面に落ちるまでのスローモーションのような描き方。この句の時間感覚はまさしく田舎育ちのユースケの独擅場と言える。郷土の先輩、芝不器男の「麦車馬におくれて動き出づ」にも似た時間感覚と言えよう。

そもそも馬糞など知ってはいても都会の人間は句材にはしない。しかしユースケにとって馬糞は幼少時より慣れ親しんだ対象なのである。ただ金子兜太の「木曽のなあ木曽の炭馬並び糞る」この一句があるのはユースケのこの句にとってちょっと不利ではあるが。

「春のくれ」がいい。うっすらと霞がかかり、夜がそこまで来ていそうだがまだまだ明るい、のんびり・長閑・春風駘蕩、春の夕暮の所在無げな気分と馬糞が落ちてゆく様を見るともなく見ている作者の暇さ加減。そもそもそんなことを俳句にしようという阿呆らしさ。褒めるところは沢山ある。

最後の方にある戦争関連の句についても触れたかったが、飽くまで一句鑑賞ということなのでこの辺で筆を擱く。





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