2010-01-17

〔新撰21の一句〕山口優夢の一句 仲寒蝉

〔新撰21の一句〕山口優夢の一句
毒がない ……仲 寒蝉 


月冴えて顔のさいはてには耳が  山口優夢

百句のうちの秀逸と言えば、小論で優夢の恩師佐藤郁良さんが挙げている10句余りや、座談会の俎上にのぼった数句にまず指を折るべきであろう。しかし同じ句を論じても仕方ないので敢えていずれにも取り上げられていないこの句にした。実はこの句は私も出席した句会で彼が投句したもの、確か顔か身体の一部を詠み込むという題が出されていた。記憶が確かなら私はこの句をその日の特選にした筈だ。

百句通して読んで「うまいなあ」とは思うが「すげえなこいつ」とは思わせない、どこか物足りなさを感じる。技術的には、切字や古典文法の駆使、季語の斡旋、景の切り取り方、どれを取ってもそつなくこなす能力が備わっている。ただ最近の若い作者(というおじさん風の物言いはしたくないのだが)の作品に共通して感じるように「若さが感じられない」という思いがある。もっと破綻が見えてもいいのでは?無謀なことやってもいいのでは?という云わばないものねだりである。

優夢の作品には毒がない。それは彼の育ちのよさから来るものでもあろう。

この句なども技術的にはかなり高度なものがある。耳を顔の「さいはて」と看破した点、「耳が」とわざと言いさしにして余韻を持たせた点、しかも普通の俳句の終わり方ではないという点、「月冴えて」という季語の付け方(冬の月、寒月や、など別の表現もあった筈)、一見関係のない月と耳の形の相似(通常は眉だろうがそれを外した)…どれも作者の能力の高さを感じる。こういう分析的な対象の扱い方は理科系だなと思う(彼は大学院で惑星化学を専門としている)。こうやって見てくるとこれは彼の長所がとてもよく出ている一句ではなかろうか。

2年間に亙って私に1日5句を送り続けてくる根性があるのだから、この百句をまとめたのを機に、もう少し毒のある句を目指して欲しいというのが老婆心ながら現在の私の気持ちなのである。




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