2010-02-07

〔俳句総合誌を読む〕 手で書くということ 『俳句』2010年2月号を読む 五十嵐秀彦

〔俳句総合誌を読む〕
手で書くということ
『俳句』2010年2月号を読む

五十嵐秀彦


ネットで話題のツイッターを最近になって始めて、そこでもこちらの天気さんたちのツイート(呟き)に出会い、なかなか面白い。
先日、私がそこに『俳句』2月号を買ったと書いたら、天気さんと佐藤文香さんが、書店で『俳句』誌を買うときの「ポーズ」について語り出し、思わず爆笑してしまった。
まあ、そんな冗談も出るほどこの雑誌は独特の顔つきをしている。
表紙には「俳句」という巨大な誌名がドーンと鎮座し、さらに特集タイトルも表紙の三分の一を占めようかという勢いで強調されていて、なんとも目立つ顔つきなのである。
そこから伝わってくるものは、特集タイトルで購買意欲を誘い出そうと編集者が考えているらしいということだろう。
ところが私の場合はいつも逆に購買意欲が音を立てて退いてゆくのを感じてしまう。
あえて前段でそんなことを言うのは、今月号の特集タイトルも、なかなかに「凄い」ものだったからだ。

特集 「手帖拝見! うまい人は句帖がちがう」 p65-

「素敵な人はカバンがちがう」なんていう女性雑誌などでよく見かけるタイトルみたいだなぁ・・・と、ある意味感心してしまった。
そんな皮肉をひとりごちながら中を読むと、内容はタイトルほどに陳腐ではなく安心した。

特に冒頭に置かれた金子兜太のインタビュー「戦時中の句会録発見! 兜太流・俳句整理法」p66-(正直このタイトルもどうかと思う)は、戦争末期のトラック島での句会の様子が語られていて貴重な記録だ。
そして「手帖」という点では、兜太は《手帖主義にはあまり賛成しない》とし、そういうスタイルにこだわらず自分に合った独創的なやり方をみつけたほうが良いと言っていて、特集の出だしから「句帖がちがう」もなにもあったものではない展開。

石田修大「二つの手帖 緻密と無頓着」p74- では筆者の父・石田波郷の手帖の使い方について語られている。
波郷は会社手帖のような小さな手帖に句だけではなく、随筆用のメモなども、なんでも無造作に書き込んでいたらしい。
縦書きだったり横書きだったりも自由自在だったようだ。

恩田侑布子の「林泉をゆくごとし」p78- は、大野林火のことで、彼は角川『俳句』付録の例の句帖を愛用していたという、編集者を泣いて喜ばせる内容。
推敲の跡はきわめてまれで、完成した句か、抹消線で判読不能になるまで丁寧に消されているか、いずれかしかなく、恩田はその句の消し方を《生まれ出づることのできなかった句への供養》だったととらえていて、林火の作句姿勢をうかがわせ興味深い。

小川軽舟は「湘子帖の余白」p82- で、藤田湘子が「湘子帖」と呼ばれる特製の句帖を使っていたことを紹介している。
その句帖は、湘子の筆跡による「湘子帖」という文字を金で箔押しした凝ったあつらえだったそうだ。
例の「一日十句」をこの句帖でやりとおしたわけで、その気合が伝わってくる話。
驚いたのは、その特製手帖を「鷹」の希望者にも頒布したということだ。
そして《私たちは師と同じ句帖を手にして昂りを覚えた》と小川軽舟は言うのである。
そのことをどうとらえるかは人それぞれだろう。
私は結社という特異な集団の持つ奇妙な空気を感じてしまって少々当惑してしまう。

今回の特集を読んで、手で書くということの意味について考えさせられた。
パソコンやケータイ・メールが当たり前の世の中で、手で書くということを特に若い作家たちがどう考えているのか、それを知りたいものだと思った。


高柳克弘「現代俳句の挑戦 第14回 若手作家から見える「今」」 p148-

『俳句』誌を買ったら真っ先に読むのがこの記事。
今月は話題のアンソロジー『新撰21』についてだ。
ようやくこのごろ若手作家が注目されるようになり、また注目に値する作家が多く登場していて、長く続いていた停滞感が崩れ始めていることは、闇に灯火を見る思いだ。
しかも、そうした若手を論ずるこの筆者もまた若手であるところが大事であって、ここにひとつの運動が起こり始めているようである。
この稿の最後に置かれた文章がやけに名文で参りました。

何もない荒野に直面せざるをえなかった彼らは、先行世代の心配をよそに、荒野の枯木や小石をむしろ楽しんで手に取り、その荒野に住むべき屋をみずから築こうとしている。彼らが作り出そうとしているものは、かつての俳句史の偉人たちが作り出してきた荘重な宮殿に比べれば、貧弱で頼りない藁屋にすぎないかもしれない。だが、その一歩一歩の手探りの歩みこそが、詩人というものの本来の歩き方ではないだろうか


高橋睦郎「去年今年」50句 p22-

久々に感動させられる50句を読ませてもらった。

 骨灰を撒けば大川水ぬるむ

 豚屠る血しぶきに夏立ちにけり

 泳ぐ母見し唯一度夏送る



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