2010-02-28

『俳句』2010年3月号を読む 上田信治

〔俳句総合誌を読む〕
合評鼎談ひとり  『俳句』2010年3月号を読む

上田信治



扉作品5句●金子敦「巨船」

ワカメ ラスカルさんらしい5句。〈フリージア真白トースト黄金色〉いいもの二つ、きれいなもの二つを衒いなく、重ねちゃうところとか。
カツオ メルヘンです。〈ももいろの麩の漂へる春の昼〉とくると、おつゆのお麩を見ているうちに、自分のいる空間もふわふわになっていくようで、面白い。


特別作品50句●廣瀬直人「旦暮抄」

カツオ 俳壇重鎮のお一人です。「風土」「重厚」「実直」というイメージ。
ワカメ でも、とってもレトリカルですよね。〈信濃より音曳いてくる空つ風〉〈いさぎよく炎となりて畦火立つ〉。重厚というのは素材のイメージで、それを「どう言うか」で勝負することの多い作家ではないかと。今回の50句では〈廂より夜空はじまる鬼やらひ〉とか。
カツオ それは、ありそう。
ワカメ ていうか、こういう現代俳句の「言いなし」系(と私は呼んでるんだけど)のオリジンのお一人なのでは? 先生の飯田龍太は、ちょっと違いますから。〈放り出すやうに畦越す春の猫〉「(猫が身を)放り出す」なんでしょうけど、やっぱりいっしゅん、猫を投げる架空の主体を想定するじゃない? だから、なにかに放り出されたように「畦越す」猫・・・そこで、猫の飛ぼうという主体が消えて、純粋に動作だけがあるっていう。言い方がヘンにぐるりんとなってるところが面白い。


特別作品21句●大牧広「白魚飯」

カツオ 好きなんですよ、この作家。この人が言ったり思ったりしてることはすごく平凡なんだけど、景や素材が平凡であることが俳句の良し悪しと別問題であるのと同じように、本人が一見平凡人でも、それは「そういう人がいる景色」っていうふうに読める、つまり平凡な感慨が述べられてるからといって、つまらないとは限らないんだよね。〈すべからく世に逆らはず粥柱〉〈着ぶくれて悪友もなき後半生〉〈手をこすりゐて元気出す啄木忌〉とかね。妙に好き。
ワカメ それってどこで作品になってるんだと思う?
カツオ よく分からない。アイドル性かな? いや、でも句会で名前を伏せられても、取るだろうなあ。平凡に開き直る、ってことを、この人わざとやってるんじゃないかな。
ワカメ 句会のお仲間で「人事句は私はとりません」と宣言した人がいて「そういう話は喫茶店でしてください」だってw 私も半分はその人に同感なんだけど、〈多喜二忌の逆さ睫のまたもかな〉すごく痛い思いをして死んだ人の名前を、ここにもってくるところが、すごい。〈ひたひたと海暮れてゆく春帽子〉シルエットの自分をさっと景色に描きこんで、うん、やっぱり、この人、ある意味二枚目というか、役者なんじゃないでしょうか。


特別作品21句●石田郷子「冬景色」

ワカメ 淡々、淡々とね。
カツオ 〈春の山たたいてここへ坐れよと〉〈さへづりのだんだん吾を容れにけり〉は、自分の感性を俳句に「のせる」というか「盛る」というかんじだったけど、今は、俳句カメラに写った「静かな世界」をスナップしてるってかんじ。
ワカメ いや、第一句集から、そういう句もありましたって。
カツオ 今回だと〈トラックの荷台に乗つて狩の犬〉〈大臼を運び入れたる冬景色〉とか。いいスナップ。


●小川軽舟「茜雲」16句

ワカメ
 んんん、どうでしょう。私は、この作者のファンですが、今回ちょっとお忙しかったのでは、と思いました。〈覚えをる夢は短し実朝忌〉「雪舟は多く残らず」ふうだけど、なんか、そんなに言い得てないというか、実朝忌も「鷹」的にはつきすぎでは?(それこそ「秋螢」の線をねらわれたか)
カツオ 〈よき音の錆びつきし鈴冬の雲〉よくないですか。池田澄子さんの「枯園でなくした鈴よ永久に鈴」が響いてるのかな。僕は、軽舟さんは、病的なほどに繊細だったり、病的なほどにとぼけていたりするところが好きなんですけど。
ワカメ 病的にとぼけてるってなに?w でも、この鈴は錆びていながら「よき音」の鈴なのか、それとも、かっての「よき音」が錆びついて、錆びついたような音になってる鈴なのか? 語法的に曖昧では?
カツオ それは後のほう。だって「錆びつきし鈴のよき音」とだってできるのに、そうしなかったんだから。
ワカメ そうかなあ。ここまでイーブンにどっちでもとれる表現て、どうなんだろう。同じようなことで〈冬の蠅見れば絶叫してゐたる〉、絶叫していたのは、蠅か、見た人か。


●三田きえ子「春の雁」16句

ワカメ 美しいイメージが重層的に描かれていて、ひかれました。〈涅槃吹くひらきしままの魚の口〉〈踏み石のふくらむばかり百千鳥〉。
カツオ 〈涅槃吹く〉は、まずくない? 
ワカメ まずいかも。「涅槃吹(ぶき)」は傍題であったけど。「涅槃吹く」だと「涅槃」が風の別名になっちゃう・・・ありになってる歳時記もあるかもしれませんが。あと「ふくらむばかり」の「ばかり」は、ふくらんでばっかり、か、ふくらみそうに、かは、ちょっと気になった。
カツオ あ、でもそれは分かるかも。春の土か、草に囲まれた踏み石が、周りがふくらんでるのにつられて、ふくらんでるように見えるんでしょ。〈雨音のたかぶる春の別れかな〉も、ちょっとよかった。
ワカメ その前に「人送りけり」っていう句があって、お葬式だと思うと、ちょっと演歌になっちゃうかな。個人的な思いを否定するつもりはありませんが。


●礒貝碧蹄館「秘部」8句

カツオ
 この人はへんな人だよねえ、あおいひづめのやかた。ヘキテイカンって、歴史的な地名らしいけど、それを俳号にする意味が分からない。〈示唆的な横顔見せし冬の蠅〉〈北寄貝に整列をする儀仗兵〉。かなり面白い。面白い気がする。
ワカメ 面白いと思えば面白いけど、面白いと思う必要があるのかどうか。私は揺れています。


●守屋明俊「種痘痕」8句

カツオ 句集『日暮れ鳥』の小特集に寄せられた新作です。〈雛の間の現(うつつ)いろはに金平糖〉鳥居真里子さんの「のりしろや春はなのみの貝の舌」を思い出しました。
ワカメ その「現」ってなんでしょう。
カツオ ぼーっとしちゃうんじゃないですか。雛飾りって、ちょっと幻想的雰囲気をかもしだすから。金平糖はあるんだよね、そこに。
ワカメ ふむふむ。〈捨てられし鉢のすてばち草青む〉は、きわどい。そんなに無理に面白がらなくてもいい気もします。〈あたたかや束子を吊す竹の枝〉は気持ちがいい。庭石でもみがいて、ちょっと掛けたんですかね。
カツオ 竹やぶかも。束子はカワイイから、ちょっとずるいですけどね。
ワカメ では、今月はこんなところで。
カツオ 再来月、「俳句」本誌の合評鼎談で、みなさんがどんなふうに言われるのか、ちょっと楽しみです。
ナカジマ お疲れ様でした。



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