2010-02-28

〔新撰21の一句〕外山一機の一句 久留島元

〔新撰21の一句〕外山一機の一句
たんたんたぬきの大脱走……久留島元


大脱走あそび金玉ぶうらぶら  外山一機

たしか、始めて聞いたのは『平成狸合戦ぽんぽこ』だろう。
狸たち自身が唄っていたのである。
なんてくだらない歌だろう、と感心して、たまに口ずさんでは、周囲の顰蹙を買った。

♪たんたんたぬきのきんたまは
 風もないのにぶうらぶら
 それをみていた子だぬきも
 親の真似してぶうらぶら

細部は違うかもしれない。ネット上ではいくつか別のバージョンも紹介されていた。
誤解がないよう申し添えれば、きんたま、もさることながら、狸が好きだったのである。

大脱走、というと、あの映画『大脱走』だろう。
恥ずかしながらいまだに全部観たことがないが、「日曜洋画劇場」やなにかで放映されているのを、部分的に観ていた記憶がある。
Wikipediaによれば、1963年の公開。ジョン・スタージェス監督。スティーブ・マックイーン主演。
実に、私の生まれる二〇年以上も昔の映画である。

彼らがどういう素性で、どういういきさつで「大脱走」していたのかを知ったのはずいぶん後のことだ。ただ、さまざまな方法で敵の目をくらまし逃走する姿が、スパイアクション的に面白かったにすぎない。

この句の作者も、きっとそうだ。
だから、みんなを誘って、「大脱走あそび」に興じるのだ。
フェンスをよじ登り。
体育倉庫の裏を走り。
たまには人の家の石垣に隠れたりして。

実は追ってくる敵などいなかった。
なぜなら、「大脱走あそび」は、知恵を絞って「大脱走」するのが楽しいので、追いかける側にまわりたい人などいないから。
逃げても逃げても、追ってくる人がいない「脱走」は、終わらない。

どちらも共通するのは、バカバカしくて、懐かしい、無意味な、おかしさ。

金玉だけが、ゆれている。



外山の句は、どれも優しさにあふれている。
外山にとって、先行する俳句、短歌、小説、物語、映画、落語、そしてたぶん、漫画や演劇や歌謡や昔話など、すべては等価にいとおしむべきモノガタリ、なのだろう。

しかし、外山自身は、自らがそのまま、愛すべき先行する作品の列へ加わっていくことを、潔しとしない。
先行する幾千、幾万のモノガタリを享受しながら、なおかつ、自分自身のモノガタリを生むことが、先行するモノガタリに対する敬意だと、そう心得ているのだろう。

パッチワークでも、
コラージュでも。
今まで「在った」世界から、少し、違う世界。

ようこそ、外山一機の世界へ。






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