林田紀音夫全句集拾読 106
野口 裕
遮断機が刺して夜空の裾くたびれ
昭和三十八年、未発表句。「遮断機」は、紀音夫の好みそうな題材だと思うが、句になったのは初めて見た。これで出来上がっている句。
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年改まる曇天を硝子に塗り
昭和三十九年、未発表句。正月を素直に言祝ぐ気持ちになれないときは、誰にでもある。それが正常なのだと思う。
たそがれはまれの和服の頬に濡れる
昭和三十九年、未発表句。これも紀音夫なりの正月の句か。「まれの和服」が多少説明ぽい。しかし、それなりの味はある。芥川龍之介の「元日や手を洗ひをる夕ごころ」との比較で、句集に入れるのを見送ったか。
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灯の薄墓鴉になった足を運び
昭和三十九年、未発表句。句帳をそのまま写したせいか、「薄暮」ではなく「薄墓」としている。烏は真っ黒で眼がどこにあるかわからない姿を、鴉は鳴き声を表す字という説を聞いたことがある。帰路の重い足取りを意識しているうちに、鴉の鳴き声が想像された、ということか。もちろん、鴉と化した自画像と受け取ってもかまわない。
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2010-02-28
林田紀音夫全句集拾読 106 野口裕
Posted by wh at 0:05
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