第1回「週俳・投句ボード」2009年2月/3月の俳句から
菊田一平・撰
○音楽になりかけてゐる春の山 近 恵
眠っていた山が笑い出す。それを「音楽になりかけている」ととらえたところがいい。
○亀鳴くや眠たさうなる亀石に 中村 遥
あの亀石の目蓋が重く垂れ下がっている表情を思い出して笑った。亀石に亀が泣いて駄々を捏ねているようにも見える。
○紅梅であったか桃の花であったか 藤本る衣
阿波野青畝の「わたしら座布団あつてもなくても」の字余りの措辞に似て愉快。
○春ショール千秋楽のロビーかな 栗山 心
なるほど。千秋楽のロビーには春ショール。色合いがとてもいい。
◎春の闇よりひそひそと石の声 minoru
シュールな世界。具体的なことをなにも言ってないけれど、「春の闇」が読み手にいろいろなことを想像させてくれるのがなかなか。
○春田までトランペットの音聞こゆ 金子 敦
春田の先に連なる山々にまだ雪が残っているような。なんとも懐かしいこの景が好きです。
○神楽坂土産にもらう春の風邪 沖らくだ
神楽坂でもらった土産が「春の風」。いかにも花街が残る神楽坂の土産。「春の」が色っぽい。
○石一つひろいて帰る春の山 あまつばめ
山に住んでいるひとが里の土産に石をひとつ持ち帰ったようにも読めるところがなんとも。
○石積みの街です春の日暮れです あまつばめ
いいですね。クスコとか南米のアンデス山脈の集落のような。「です」のリフレインも悪くない。
○大楽器なればおほきく春映す 三島ゆかり
楽器はチューバでしょうか。「大きく春映す」の大雑把ともみえる言い回しが効いている。
○潮臭くなるまで春田打ちにけり 中村 遥
「潮臭く」の意外性が魅力。海を見下ろす棚田の景でしょうか。不思議な面白さがありますね。
◎店番と春のめだかとその影と 藤本る衣
いやあ。このトリビなものの見方すきです。ときどきさっと動く影がいい。
○田螺鳴くやうに田螺を啜りけり 猫髭
わかるわかる。田螺のエスカルゴ。唇を焼けどしないように。
○田螺鳴く深夜食堂明々と 七風姿
意外と「深夜食堂」が効いています。捨てがたい一句でした。
○不器男忌のにはとり柵を越えざりき 猫髭
おいおいなに馬鹿なことやってんだよ!と笑いつつ、このチャレンジ精神が好き。最後の「越えざりき」の「き」が俳味。
◎風船や町田川崎また町田 沖らくだ
上手いなあと感心した。あそぶときはここまであそびたい。力の抜け加減がなんともいい。
○老猫の石につまづく目借り時 鈴木牛鈴
事情があって心ならずも犬を飼ってしまっている猫派のわたしには、この老猫の哀れさが手に取るようにわかる。切なさの一句。
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