2010-07-25

俳句作品テキスト 寺澤一雄 夏八十夜

 夏八十夜   寺澤一雄

立夏
柏餅午前七時に買うてくる
蠅取リボンもとの筒には戻らざる
東大の周りは塀や麦の秋
初鰹魚屋声に出して売る
白梅紅梅青梅を実らせる
石割れば石の模様や夏の山
熔岩の冷えれば石に夏来る
ライ麦の丈の高さはぬきんでる
門燈は門を照らせる夏の夜
夏めくや海辺に来る原始人
長虫のまん中咥へ烏飛ぶ
筍といはるる皮を脱ぐまでは
夏きざす人は人産みつながれる
町中の住宅展示場に蠅
卯月野に土の出てゐるところあり
余花の下アメリカザリガニが釣れる
小満
恋文に素麺のこと書き連ぬ
野にくらす人の周りの虹滅び
短夜を朝日新聞すでに来る
草引けば土が着き来る夏野かな
つかはねどあるべき場所に渋団扇
越の国から届きたる夏蕨
雷神の実も蓋もなき姿かな
金魚だけ泳がす池を掘りにけり
網戸して坂の途中の剥製屋
ズッキーニ花は黄色に実も黄色
言うてみよ卯月の空の淡さ儚さ
太陽は地球の前に茗荷汁
夏富士や熔岩地中より溢れ
茶や菓子を噴井のそばにあきなへる
夏夕べひよつこりひようたん島弧島
自転車を漕いで短夜荒しけり
芒種
夏の月頭の上に隠れたる
蛇口から出る水ぬるく朝曇
門を開けニセアカシアの匂かな
夏野から航空ショーのジェット音
クロールは人の泳ぎやたゆまざる
幽霊は青野に足を取られけり
青葉若葉二酸化炭素から酸素
短夜の明けるや否や外に出よ
西日強し上下水道完備かな
音楽や口の回りに汗をかく
茗荷の子一丁目一番地なり
夏の海浦島太郎戻しけり
貧毛類みみずは土を食べて出す
どんが鳴り鯰はうしろ姿見せ
何にでも甲乙丙丁三尺寝
夏至
最初から兵隊蟻として育つ
銭亀の家に飼はれて磨かるる
床下の濡れずに過ぎる梅雨かな
蜘蛛の囲の飛ばされぬやう蜘蛛の糸
椰子バナナ立憲君主国に蠅
鼈と亀の間の子南風
青大将頭動けば尾の動く
生返事ばれてしまひぬ海の家
我に着く蠅を払へば友に着く
夏至の夜のサッカーボール蹴りかへす
夏痩せて山には山の鳥鳴けり
片陰に一つ目小僧一反木綿
夏館木造にして平家建て
夏深し家に戦死の男なし
蠅帳に残されしもの黴にけり
梅雨晴れをくる戦死者とその家族
小暑
短夜のサッカー中継まだ続く
オランダにドイツが負ける日本は梅雨
少し上から青田を見れば寝てみたし
荒川に扇大橋水中り
柄も骨もなくて団扇と言へるのか
オランダの一人退場冬の雨
水無月のうすめて使ふ殺虫剤
蚊食鳥目まぐるしくておびただし
佃島念仏踊り何百年
楠の茂りの前に背を伸ばせ
心底は計りかねます蠅叩き
肥後の守使ひきれずや凌霄花
滝野川工場の前蚯蚓死す
バーまでの略図に団扇売る男
片棒を担ぎたがらぬ源五郎
夕方の買物籠に茄子胡瓜
大暑
心臓の止まるまで待て百日紅


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