2010-08-08

林田紀音夫全句集拾読127 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
127




野口 裕



風濃く流れ巫女の歩幅で妻が来る

昭和四十五年、未発表句。どうした事情か、作者はやや気圧されているようだ。子のからまない形での妻俳句は、数少ない。このように、はっきりと人物像を浮かび上がらせる句は、初めて見た。

骨に終つた軽さ惨めさダムを歩く

昭和四十五年、未発表句。なぜ、ダムを歩くのか。わからない。にもかかわらず、ひっかかる。

 

雨びっしょりと夜の姿のテロ

昭和四十五年、未発表句。「三島自殺」の前書。判断不可能の事態にとりあえず書いた、というところ。テロは不正確だろう。

補虫網過ぎ草の葉のきらめく砦

昭和四十五年、未発表句。幼少時の回想を思わせる句。あまりに肯定的気分が横溢していて、発表しにくかったか。

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月熟れてぶらんこのりに白髪殖える

昭和四十五年、未発表句。中也の茶色い戦争後でも良いだろうし、黒沢映画の一場面を彷彿させても良いだろう。フライングして、その後のぶらんこの句を一覧すると、

雨に濡れるぶらんこ逃けて行く歳月  (昭和四十五年、未発表句)

ぶらんこの子の傷ともに天へ漕ぐ  (昭和四十六年、未発表句)

漂泊のぶらんこを夜に軋ませる  (昭和四十六年、未発表句)

揺れのこる死後のぶらんこ没り日燃え  (昭和四十七年、未発表句)

病む黄昏のぶらんこをまた誰か泣かす  (昭和四十七年「海程」、第二句集収録)

漠としてぶらんこに死の揺れのこる  (昭和四十八年「海程」)

一句目の「逃けて」は、そのまま写した。上揚句を、句集に残しても良かったのでは。

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