林田紀音夫全句集拾読 127
野口 裕
風濃く流れ巫女の歩幅で妻が来る
昭和四十五年、未発表句。どうした事情か、作者はやや気圧されているようだ。子のからまない形での妻俳句は、数少ない。このように、はっきりと人物像を浮かび上がらせる句は、初めて見た。
骨に終つた軽さ惨めさダムを歩く
昭和四十五年、未発表句。なぜ、ダムを歩くのか。わからない。にもかかわらず、ひっかかる。
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雨びっしょりと夜の姿のテロ
昭和四十五年、未発表句。「三島自殺」の前書。判断不可能の事態にとりあえず書いた、というところ。テロは不正確だろう。
補虫網過ぎ草の葉のきらめく砦
昭和四十五年、未発表句。幼少時の回想を思わせる句。あまりに肯定的気分が横溢していて、発表しにくかったか。
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月熟れてぶらんこのりに白髪殖える
昭和四十五年、未発表句。中也の茶色い戦争後でも良いだろうし、黒沢映画の一場面を彷彿させても良いだろう。フライングして、その後のぶらんこの句を一覧すると、
雨に濡れるぶらんこ逃けて行く歳月 (昭和四十五年、未発表句)
ぶらんこの子の傷ともに天へ漕ぐ (昭和四十六年、未発表句)
漂泊のぶらんこを夜に軋ませる (昭和四十六年、未発表句)
揺れのこる死後のぶらんこ没り日燃え (昭和四十七年、未発表句)
病む黄昏のぶらんこをまた誰か泣かす (昭和四十七年「海程」、第二句集収録)
漠としてぶらんこに死の揺れのこる (昭和四十八年「海程」)
一句目の「逃けて」は、そのまま写した。上揚句を、句集に残しても良かったのでは。
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2010-08-08
林田紀音夫全句集拾読127 野口裕
Posted by wh at 0:06
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