2010-08-15

林田紀音夫全句集拾読128 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
128



野口 裕



繃帯のかがやく河口むらがる墓碑

昭和四十五年、未発表句。バンドエイドが普及するまでは、容易にあったと思われる光景。ひらひらと風になびく繃帯(包帯でないところにある種のニュアンスが生じる)が河口に光る。それがそのまま、幾多の戦傷者を見てきた戦時体験の回想につながる。発表句、句集収録句との関連は不明。


プールの幾人か銃負って出る
昭和四十五年、未発表句。昭和四十六年「海程」に、「夕べプールの声に流弾ひとつまじる」(第二句集収録)。上揚句の唐突さを消し、幻聴が出てくるまでをなめらかに仕上げることに成功している。句の中に確かにあった他人が消えてしまったところもあるが。

火を焚く昼の食虫植物化の幾人

昭和四十五年、未発表句。前掲句と連続して、句帳にある。紀音夫に珍しく、異形の他者が現出している。


歯軋りの波がしら見え翼下の海

昭和四十五年、未発表句。飛行機の窓から見える景色をこんな風に表現した句をはじめて見た。結局、それだけと判断したのか、発表には至らず。

 

誰かどこかで殺されてまた朝刊とどく

昭和四十五年、未発表句。あまりにべたな感想は、未発表句ならでは。こうした句の存在が紀音夫に対するイメージを壊して幻滅するという意見もあるだろう。しかし、紀音夫の秀句が、こうした句とどこかで繋がっているのも一面の事実としてある。毀れたイメージなら鍛え直せばよい。