2010-08-22

林田紀音夫全句集拾読129 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
129





野口 裕



球根を植え天体にひとり浮く

昭和四十五年、未発表句。地球に、球を埋め込んでいる、と思ったところからの発想だろうか。論理的に跡付けようとすると訳が分からなくなるのは、 いつものこと。紀音夫が年来持っている「孤絶」を表現するには弱いと見て、発表には至らなかったのだろう。しかし、「孤絶」とはかけ離れたところでの面白 みがある。

枯葉泛きねむるプールのひらたい青

昭和四十五年、未発表句。「枯葉」を季語と捉えなければ、景の描写として過不足がなく、水の味わいを持っている。しかし、どうしても「枯葉」は季語として読 み手の中に入ってくる。作家の自選の中にもそうした問題意識は払拭できないだろう。発表句は、「夕べプールの声に流弾ひとつまじる」(昭和四十六年「海 程」発表句、第二句集収録)、「プールの青漂う残る少女も消え」(第二句集収録)など。

 

耳鳴りの中くらくらと夜を煮る

耳鳴りに雪のさざめき鬼気加える


耳鳴りにまぎれ被爆の飛行音


昭和四十六年、未発表の連続した三句。発表句は、「耳鳴りの水葬の闇寄せてくる」(昭和四十七年「海程」、第二句集収録)。ここでの未発表句から 発表句の流れは納得できる。耳鳴りが死の予告のように自身の身体に異変を告げる。その中で、「死」に思いが及ぶ。耳鳴りが身体に加えた異変のリアリティを 損なうことなく、「死」に至った想念をどう書くか。四句の変遷は、その実状が良く伝わってくる。未発表句を読んで行く意味のひとつがここにあるだろう。

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