2010-08-15

『未完現実』第232号を読む 羽田野令

【俳誌を読む】
『未完現実』第232号を読む

羽田野 令



『未完現実』は、わずか16ページの薄い同人誌である。A4の紙4枚と表紙の光沢のある紙とが二つ折りになって真ん中をホッチキスでとめられた形。中の紙だけにページの数字がふられていて16ページなのだが、表紙の裏、裏表紙の表裏ともしっかりと記事で埋まっている。

昭和33年6月稲葉直創刊、最新号は7月30日発行の232号である。現在は隔月刊。

昭和33年、西村白雲郷が亡くなり、白雲郷の『未完』に集っていた人達が野崎観音でこれから雑誌をどうするかを話し合い、33年5月発行の101号を以って終刊することを決めたそうである。そして、6月に稲葉直が、『未完』の精神を引き継ぐかたちで『未完現実』を発行することになったという。阿部完市もその時の創刊同人の一人である。

阿部完市、稲葉直の接点は高野口で行われていた句会であった。当時和歌山県塩津の診療所に勤務していた阿部完市は、俳句をしていたその診療所の所長や塩津の郵便局長らと高野口の句会に参加したという。そこには西村白雲郷が稲葉直と共に俳句の指導に来ていたそうだ。

未完現実誌は、以前は開くと最初に阿部完市が載っていた。あいうえお順だからそうなっていた。最後に阿部作品が載ったのは、2009年1月1日発行の223号であるが、この号には「俳句へ—言葉(A)」というタイトルの文章も寄せられている。俳句の一行書きについての考察で、

つづけて俳句の形、すがたを思う時、直ぐに思いつく俳句に、高柳重信の「多行形式」の一句、一句がある。
と結ばれていて、いかにも続きそうな気配であるし、タイトルにも(A)とあるから(B)も考えていらっしゃったのだろう。おそらく重信から始まったであろう(B)であるが、もう載せられることがないのが残念である。

表紙の絵は同人の中村常夫氏。中村氏は美術の教科書にも作品の掲載されている画家であり、『蝶吹雪』という句画集を出されている。今号には俳句は出されていない。

表紙を開いた裏面の上半分に「此の一句」という囲み記事。西村白雲郷の「一花一花は紅し紅梅昏れたれど」を取り上げて書いているのは、創刊同人の一人沢井山陽氏。この句は、永田耕衣の「厄介や紅梅の咲き満ちたるは」への返句として詠まれたということと、「一花一花の寂しい共生きのいのちを感応」している二人の交流について書かれている。裏表紙には、稲葉直の「涼しくて蛙の目玉けとろけとろ」の一句と小さなエッセイがある。

未完現実とは雑誌の名にしては一風変わっているし、現実は常に未完であるという意味なのか等思うが、その意図するところを稲葉直は、「創刊にあたって」という辞で次のように述べている。
誌名の「未完現実」とは、殊更に深い意味をもっているものでもない。或は誌名として適合を欠いているかもしれないが、「未完」の長所を長所として今日の作家精神に具現し、更に、逃れることのない「現実」(今日)の場に俳句の純粋(詩)を発展確立しようとする精神の象徴にすぎないのである。
謂わば、白雲郷の「未完」プラス直の「現実」といったところだが、もっと熱いものを込めているようである。続けてこう言っている。
更に複言するなら、今日の俳句認識に即応した現実の欲望を獲得しようとする意識(意慾)の表象なのでもある。
戦後、永田耕衣らと共に根源俳句を提唱したとされる西村白雲郷を継ぐ者としての意志も、この「創刊にあたって」に感じられる。
……われわれは、白雲郷作品の皮殻をもてあそぶものではない。固定化することのなかった白雲郷作品を、具体的に今日化したいのである。そのためには、俳句でないものを俳句に、俳句でないところから俳句を、この次元をできるだけ拡大させ、発展させ、今日の必要と要求に生かしたい……


今号に句を寄せている同人は14人。高齢の同人が多く一昨年あたりから追悼特集が頻繁に組まれている。中でも阿部完市氏が亡くなられてからは、何人もの同人が辞められた。以前は一人五句づつだったのが、今は七句になり行間も広くとられている。

普通の俳句作品の他に毎号特別作品の欄もあり、二人が20句づつ出している。そして前号の作品の鑑賞や、同人による共鳴句五句選がある。また今号では、稲葉直の『私記・西村白雲郷』(昭和63年)よりの転載もある。この転載と
「一花一花は紅し紅梅昏れたれど」とで、白雲郷色が強く出ているが、「此の一句」にはいろいろな俳人が登場するし、転載も毎号あるわけではない。

この小さな雑誌を続けていくにあたって、小松編集長は新しい試みもされている。毎月大阪の天王寺でこじんまりした句会が持たれている。
同人の作品から一句づつ引く。

銀漢を背ナに遺伝子二個足らぬ   沢井山陽 (ナ:小さい字)
春紫苑語り伝える境界線      白木暢子
青嵐女が渡る布の橋        末岡 睦
交わりて空に膨らむ柳絮かな    高橋悦子
丹田におさめるものは梅雨ぐもり  中島布弓美
白面の阿部完市を包囲せよ     中村ヨシオ
白々と蝮の骨の寸足らず      畑中誠
指の傷舐めて父の日父の椅子    森田ていじ
揚げ花火たましいは不眠症なり   横須賀洋子
軍艦をさけて泳ぐ日本海      青倉人士
かたばみの茂みの中へかくれたし  井筒早苗
枯尾花つかいふるしの日の光    大高俊一
薔薇の香を包むセロハンつぶやきぬ 木村春燈子
真昼 もっとも暗き蝉時雨     小松賢治

発行所、問い合わせ先:
〒571−0013 門真市千石町東町13-10 未完現実社

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