【週俳7月の俳句を読む】
「馬鹿が見る~」という遊び …… 岡田由季
俎板にしみつく音も明易し 秦 夕美
厨房を起点として物語の世界に遊ぶといった趣きの10句で、皿屋敷や鍋島の猫が登場するが、それほど恐ろしいとか、深みにはまっていくような感じはない。対象との距離感もあり、物語として楽しみながら巡ってゆくことができそうである。ところが実はこの句のあたりに落とし穴が潜んでいるような気もする。単調な日常生活の繰り返し。そこにしみつくもの。いったんそこに目を向けてしまうと取り返しがつかないことになりそうだ。
ほら螢しづかな闇の湿りをり 小林苑を
「ほら蛍」で読まされてしまった。しづかな、闇、湿り、すべて蛍の属性として当たり前といえば当たり前である。それだけではのっぺりしてしまうところ「ほら」で勢いが生まれることにより、後半の静かな蛍の世界に浸ることができる。「あ!」と何もないところを指さして「馬鹿が見る~」という遊びがあったが、「ほら」と言われれば人は反応してしまうのである。リズムの緩急でできあがっている句だと感じた。
東大の周りは塀や麦の秋 寺澤一雄
門燈は門を照らせる夏の夜
夏の月頭の上に隠れたる
貧毛類みみずは土を食べて出す
この作者の詠み方だとわかっていても、「それを詠む?」とやっぱり驚かされてしまう。つっこみを入れつつもっと読みたくなる。1日10句のうちの1句で80日分の80句だが、そのボリュームを重たいとは感じない。
80日が二十四節季できちんと刻まれていて、そこにはこだわりがあるのかもしれない。その律義さもなんだか可笑しいのである。
■秦 夕美 厨にて 10句 ≫読む
■後藤貴子 バナナの黒子 10句 ≫読む
■小林苑を 潮騒 10句 ≫読む
■寺澤一雄 夏八十夜 80句 ≫読む
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2010-08-08
【週俳7月の俳句を読む】岡田由季
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