2010-08-08

【週俳7月の俳句を読む】中山宙虫

【週俳7月の俳句を読む】
くっきりと影を持つ …… 中山宙虫


水無月の影を売りたる男かな  秦 夕美

毎朝の通勤。
熊本の路面電車のゆれに身をまかせながらあれこれとものを考えている。
始発である健軍町から乗り込むため、必ず座ることができる。
しかし、小さな路面電車はサラリーマンや女子高校生などで次々と乗せ、始発で満杯になる。
雨の日は更に人が乗り込む。
満員の電車はがたんがたんと独特のゆれで人々を運ぶ。
いつもこのゆれの中で目を閉じてひと眠りを決め込んでいるのだが、雑然とした電車内の音はそれを許してくれない。
女子高生たちは、なにやら盛り上がっていて、うるさいくらいだ。
きっとおじさんたちは、その話の内容にうんざりしているに違いない。
何を話しているのかわからないが、こんなぎゅうぎゅうの中、話が途切れることがないのだから。
電停に着くたびにまたひとが乗り込んでくる。
電車の乗り込み口は、それこそ身動きもとれなくなっている。
「一歩ずつお詰め合わせください。」
運転手のアナウンスが繰り返される。
ひとつふたつ電停をクリアしながら電車は熊本市の中心部へ進む。
「水前寺駅通」では、JRからの通勤客が乗り換えのため、更に客が増える。
ただ、ここから先は市内中心部で高校や会社などが増えてくるため、下車する客も増えてくる。
交通局前では、騒がしかった女子高生たちがどっと降りる。
いっときも話が途切れることなく電車を下車してもまだ話が続いている。
すごいパワーだ。
そんなことを感じるころ、少し睡魔が・・・・。
ところどころ記憶が途切れる。
気づくと電車は街の中心部へ。
急に車内が空いてくる。
自分も降りなくてはならない。
このままこの電車のゆれに身をまかせたい。
もうひと電停先まで乗って行こうか。
なんだか職場に一分でも早く着こうという気力をなくしている。
それでも、出勤時間は決まっているのでしかたなく下車をする。
「辛島町」。
ここが限界だ。
これ以上乗ると、遅れてしまう。
雨。
傘を開きながら、スクランブル交差点を歩く。
その僕の目の前を携帯で声高に話しながら歩くスーツ姿の女性。
さっそうと雨の中をゆく。
勤労意欲もこの雨の中の通勤で半減しているのだが、女たちは、しゃべりながらその意欲を盛り上げているかのようだ。
女たちは雨の中にありながら、くっきりと自分の影を持っている。
そうに違いない。


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