2010-08-15

雑草戦争戦後秘話 中嶋憲武

雑草戦争戦後秘話

中嶋憲武


小学4年だった1970年頃、遊びと言えばもっぱら雑草戦争だった。

家の裏の空き地に、家屋が二棟建つ事になり、基礎工事の土台作りが終って、コンクリートで仕切られた枠を見ていると、おおよその間取りが想像できた。二棟とも木造平屋建てで、居間が二つに、台所、風呂場、トイレという造作だった。風呂場と思しきところに、ブロックが鉤型に積んであった。近所に住んでいた二つ下のサッちゃんと、そのブロックの仕切りのなかへ入り、お風呂ごっこをした。家の前の麦畑で、お医者さんごっこをしたのもこのサッちゃんだった。

その頃は夏で、柔らかく土が盛ってある上に、雑草が勢いよくぼうぼうと伸びていた。その日も、サッちゃんとなかよくお風呂ごっこをしていると、ちょっと苦手なウスイ兄弟がやってきた。兄は太っていて、ウスイブルトラと呼ばれていた。弟は痩せっぽちで、ウスイ2号と呼ばれていた。

ウスイ兄弟は、もう一棟のブロックの仕切りのなかへ入って行った。僕たちの真似をして、お風呂ごっこをしているらしい。こちらからみると、ブロックがちょうど盾のような案配になっていて、何をしているのか、こちらからは窺い知れない。兄弟の話す声だけが聞こえる。僕はその辺の雑草を引っこ抜き、根っこにまるまると泥が付いているその雑草を、ウスイ兄弟の陣地へ投げてみた。「うわっ」と声がして、ウスイ兄弟は立ち上がり、ブロックへ半身を出し、シャツをバタバタはたいて泥を落した。僕とサッちゃんはそれを見て、げらげらと笑った。

ウスイブルトラは応戦した。雑草を投げてきたのだ。それからは戦争になった。雪合戦にあらず、雑草合戦になったのだ。ウスイ2号はちょこちょこと陣地を這い出て、こちらの陣地へ入り込んできて、至近距離から雑草を投げた。僕もサッちゃんも頭から泥だらけになった。サッちゃんは、袖なしのぺらぺらとしたワンピースの下は、白いパンツだけで、パンツの中にも泥が入ってしまったようだった。

その夜、風呂に入って頭を洗うと、洗面器の中へ面白いように、泥がざらざらと溜まった。浅蜊にでもなった気分だった。

木造住宅が出来上がると、モリミヤさんという若い新婚夫婦が引っ越してきた。モリミヤさんちの風呂場の灯りを見るたび、そこが戦場であった事など、知らないのだなと思った。

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