2010-10-10

商店街放浪記39 大阪 天満市場周辺 2

商店街放浪記39
大阪 天満市場周辺 Ⅱ

小池康生


天満市場は、十年以上前まではとても地味な存在だった。

「こんなところにこんな市場があることを知っているのは渋い」という扱いであったような気がする。飲食店関係者が買いだしに来る市場であるから通な印象を与えていたが、福島の中央卸売市場からすれば、実にちっちゃな市場で、都会の穴場的な存在だったのだ。

わたしの今までの天満市場体験と言えば、二十年以上前、十三という街で某バンドのライブを聴いたあと、そこのリーダーに誘われて飲み、最終的に夜中にこの天五の鰻屋に流れてきたことがあったのだった。

am0時だったと思うのだが、とにかく深夜に開く店だった。500円ほどで鰻重が食べられ、肝吸いもエラク安かった。この時知ったのは、この界隈は天満市場で働く人のために夜中や朝方に開く飲食店があるということである。この鰻屋もそうだった。

その頃はあくまで市場関係者とそこに買い物に来る“玄人”が利用する街であった。有名なストリップ劇場もあり、つまり目的をはっきりさせて訪れる商店街だったのだ。

そういえば、この界隈、鮨屋が多い。

東京の築地界隈に鮨屋が多いように、この辺りも天満市場との関係だろうか。当たり前といえば当たりの関係だが、今まで考えたことがなかった。築地は先に市場が目立つので関係に目がいくが、天五界隈は、市場の存在が希薄だったので、その関係に思い至らないのだ。天神橋筋商店街を散策している人のどれほどが、この市場の存在を知っていることやら。

そんな天満市場だが、歴史は古いのだ。

遡れば、石山本願寺の門前に集まる人を相手にしていた青果市場が原形というから、その始まりは1532年頃からのものになる。470、80年の歴史である。石山合戦後はあちらこちらに移動し、1653年頃、天神橋北詰から旧竜田町、大川の前の300mほどの通りに落ち着き、これが現在の天満市場の前身らしい。

市場は大川の前にあった。水の都は、京、大阪の各地につながり、大阪の港は全国に繋がった。

京の壬生菜、白瓜、伏見の筍、勝間浦の海藻、難波の干瓢、木津の瓜、天王寺の蕪、大和の西瓜、河内の蓮根、海老江の南瓜、有田のみかんなど近隣から集まる豊富な食材が売られた。

近畿一円から食材が集まり、人が集まり、市場の人達の掛け声、客の喧騒など、大阪で最も熱い場所であったのだ。『摂津名所図会』によると、<春の朝の初市より。師走の終市に至るまで一日の怠慢もなく、交易にいとまなし。浪華第一の大市場なり>

市場で物を売りさばいた人達は、現在の天神橋商店街に当たる<十丁目筋>に繰り出し、買い物や食事を楽しんだのだ。

この“天満市場”は、昭和6年に姿を消す。大阪市中央卸売市場が誕生し、そこに吸収されたからだ。

この時、一部の店が天満に残り、戦後、天神橋筋五丁目の東側、現在の大阪天満卸売市場のある位置に移ったのだ。

マイナーな小さな市場にはそんな歴史があり、2004年には、ぷらら天満というビルになり、その地階と1階が、天満市場。今では誰でも卸値で買い物ができる。市場は、そのビルの北側、以前のままに、さびれつつ耀くいい味を出しているのだ。

荒縄路地裏会集合は、19時。

わたしは早めに一人うろうろしていた。なんぞおもろい店はないか、どこぞに旨そうな店はないやろうかと一人歩きを楽しむ。足跡をつけながら、街の匂いを嗅ぐ。生活臭もありながら、通りのあちらこちらから、路地の一本一本から“旨いものオーラ”が出ている。

そそられるではないか。今日は遅刻者が多いし、皆と相談する時間もなさそうだ。目星をつけておかなければ。

JR天満駅の北側、天神橋商店街の東側の一画を縦横タテヨコと攻める。わたしにとって二十年ぶり、十年ぶりの街である。昔ながらの面影もあれば、新鮮な景も多い。

小腹がすいた。しかし、もうすぐ飲み会。こういう時、大阪ではたこ焼きである。

『GOBUGOBU』という屋号のたこ焼き屋。バルのような雰囲気。若いお兄さんがたこ焼きを焼いている。

足を止めると「今焼けるところです。どうぞ」カウンターをあけてくれる。ビニールシートの扉だ。この界隈は、このビニールシート扉が多い。親近感と開放感、それにおしゃれ感がある。

カウンターにてたこ焼きとビール。

若いマスターと話が始まる。「ゴブゴブ」という店の名前は、仕事で上下関係があっても飲む時は五分五分と言う意味であるらしい。

わたしが目星をつけた店について訊く。

「あー、どれもいいですよ」
「マスターも、この辺で飲みますか?」
「飲みますし、うちは、朝方までやっているんで、夜中に店を閉めた人たちが来てくれるんですよ」

界隈の飲食店の若きマスターたちは閉店後、ここでたこ焼きを食べ飲むらしい。だから、この店のマスターは界隈の店舗事情に詳しいのだ。

マスターが飲みに行く店も訊きだした。わたしの調べた店もいい線をいっているらしい。これで路地裏荒縄会のメンバーを迎える準備ができた。

さぁ、天満駅に迎えに行こう。

 長き夜の秋といふ字に火をみつけ  康生
                             (続く)

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