【週俳9月の俳句を読む】
今井肖子 読むほどに
おしろいに滅びし星の光(くわう)とどく 今村恵子
おしろい花待つといふこと夢多き 下村志津子
どちらの句も、夕暮れ時のこの花の香りと共にふと郷愁を誘う。今生きている星はこの中にどの位あるんだろう、と思ったら突然恐くなった星降る夜。将来がまだ形になっていなかった頃のこと。おしろいの花はあんなにてんでにやたら咲いていながら朝には気の毒なほどにしぼんでしまうのだった、とあらためて思う。ほのかなさびしさと明るさと、おしろいの花の違った表情を、それぞれの句に見ることができる。
出張の宿より妻へ月涼し 杉原祐之
赤鬼も青鬼も来よ月今宵 今村恵子
夏の月と名月と。妻へ・・・の後の間(ま)に、夕風が涼しくほんのりあまい。そして、赤鬼と青鬼と聞くとつい、かの童話を思い出す。戸口に手をかけていつまでも泣く赤鬼を、月が照らせばなお悲しく、二人が再び相まみえることはない。孤高な今宵の月である。
天高々としてごはんがおいしくて 澤田和弥
天高し油絵の具を塗り込める 宮本佳世乃
天がなかなか高くならない今年だけれど、新米の出来は良いらしくごはんがおいしい。破調ながらリズミカルで心地よく実感のある一句目。また、その青さに近づけようといくら塗り重ねてもどこかが違う、そんな深さも秋天だろう。
冬に入り狸の背の傷も癒え すずきみのる
貧乏はいやだと泣かれクリスマス さいばら天気
昔話の中では特に、いつも幸せ薄い狸。入り、癒え、とその止め方もどことなくわびしくこれからが思いやられる立冬である。そして最後に、こんなクリスマスの句には初めて出会った。読むほどに、クリスマスだからいいのだと思えてくる。今回ツボだった一句でした。
■今村恵子 水の構造式 10句 ≫読む
■宮本佳世乃 色鳥 10句 ≫読む
■下村志津子 隠し鏡 10句 ≫読む
■杉原祐之 新婚さん ≫10句
■澤田和弥 艶ばなし ≫10句
〔投稿作品〕
■すずきみのる とんと昔あったげな 10句 ≫読む
〔ウラハイ〕
■さいばら天気 にんじん 結婚生活の四季 9句 ≫読む
■
2010-10-10
【週俳9月の俳句を読む】今井肖子
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 comments:
コメントを投稿