〔超新撰21を読む〕
恋の駆け引き
小川楓子の一句……野口裕
ねむの木のむね燃えるたびつぐみの目 小川楓子
「やう」がしばしば句に登場することからも、発想の根底に事物の比較があることがわかる。比較の極限形態は、
眠るやうに眠つてゐたり母の冬
毛皮着てあなたのやうなあなたに会ふ
に見られるように、事物の中のイデアとの比較まで行き着く。そうした発想の作句がもたらすものなのか、同一語が句中にくりかえし登場するようになると、同一音のくりかえしが句に軽やかな表情をあたえる。
作者は、それを自家薬籠中のものにしているようだ。上揚句は、そうした効果を最大限に使っている。古今・新古今あたりの恋の駆け引きの一節のようにも見えてくる。「ねむ」が「むね」と変容するくらいだから、「つぐみ」が「つぐむ」と連想させ物言わぬ恋が、目は口ほどにものを言う小唄・端唄の世界まで引っ張られて行く。最後は三味線の爪弾きでも聞こえてきそうだ。当方のような朴念仁には、はるかに仰ぎ見る世界ではある。
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2011-01-23
〔超新撰21を読む〕小川楓子の一句 野口裕
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