〔超新撰21を読む〕
かすかな焦燥感
篠崎央子の一句……野口裕
逃水や恋の悩みを聞くラジオ 篠崎央子
日常のなにげない事象を繊細な感覚で季語とつなぎあわせて見せる句柄、と見える。しかし、通読するうちに作者の中にあるかすかな焦燥感のようなものがほの見えてくる。
瓜の種ていねいに削ぎ天職なし
土匂ふ若水この地に果てようか
などは、その感覚がストレートに出てきたものだろう。
名刀のかすかなる反り十三夜
ネズミのメスは、交尾の際に上からのしかかったオスに腰の辺りを押されると反射的に身を反らすという。「反る」という行動は、ヒトが二足歩行する以前の性行為につながる記憶を呼び覚ます。高柳重信の「身をそらす…」を持ち出すまでもないだろう。この句も十三夜と組み合わせることで濃厚なエロスを感じさせるのだが、「かすかなる」と打ち消すところに眼前にある刀身の質感をただよわせて見事である。だが、一句鑑賞とは別にして、百句を通読した時、この「かすかなる」が上述の焦燥感に変貌するところがある。
日常生活にとりたてて不満はないにしても、なにか満たされない。逃水も機械文明以前の人がかつて草原で見たものとは比べものにならないアスファルト上のしろもの。どうしゃべりつくしても解決するわけもない他人の色恋沙汰を聞きながら作者はあてもなくドライブを続ける。
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2011-02-27
〔超新撰21を読む〕 篠崎央子の一句 野口裕
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