2011-02-20

第30号~第39号より 猫髭さんのオススメ記事

第30号~第39号より
猫髭さんのオススメ記事


「週俳」には、俳句のハの字も出て来ないのに、通読していると「何となく俳句的」という気分にさせられて、愛読してしまう面白い記事がある。第31号からの新連載「スズキさん」(中嶋憲武)と、第38号からの新シリーズ「そんな日」(かまちよしろう)がそうである。

まず「スズキさん」だが、このスズキさんが変に面白い。彼はナカジマくんが勤めているお菓子の包装箱の会社の社長のお母さんの弟で、ナカジマくんは彼の手伝いをしながらお菓子屋さんに菓子箱を一緒に配達して回るのだが、その同行中のスズキさんの言動が微妙に面白いのである。

例えば、皇室と相撲のカレンダーを仕事帰りにスズキさんは沢山買って来る。「田舎では皇室・相撲のカレンダーを貼っておけば、鼻高々なのだとか」。ナカジマくんと同じように、スズキさんの故郷の秋田というのは家々に月ごとに、「一月は、天皇御一家勢揃いの図で、例の写真です。あとは天皇皇后両陛下がお田植えをされている写真、秋の野を散策されている天皇皇后両陛下の写真」という「日本のステレオタイプの図版世界」が吊るされている様を想像し、そのあとでNHKの連続ドラマ「ちりとてちん」まで付き合って見てしまうのである。わたくしも釣られて見たが、このドラマは恐ろしくよく出来ていて、スズキさんと同じようにほろりとした。

スズキさんはビートルズの「ノルウェイの森」は苦手である。演歌ひとすじ。五木ひろしに角川博というヒロシ系が好きで、ここまでは普通の職人気質にはありがちなのだが、ここから一味違う。秋祭の喉自慢大会には、池袋の東急ハンズで金髪のかつらを購入し、メイクアップもきっちりとし、真っ赤なミニのワンピースを着て、山本リンダの『狂わせたいの』を歌ったという。

山本リンダは金髪じゃないけどな、と俺は思った。ついでに演歌でもないな、と思ったので、スズキさんに、「山本リンダ、演歌ですか」と聞くと、「あれは、演歌だよ」と言った。山本リンダは演歌か。なるほど。 「来年は、三度笠と合羽を買ってきてね、氷川きよしの、やだねったらやだねっての、やろうかと思ってるんだよ。三度笠、どっかで売ってるかね」と、マンゴー・オレに差したストローから唇を離してから、言った。

冬日はだいぶ、西に傾いた。

山本リンダが演歌とは、実にスズキさん、興味津々のお人柄。

わたくしは作者本人による「スズキさん」の朗読を聞いたことがある。訥々として、スズキさんが菓子箱を抱えて現われる気がした。



「そんな日」は、一口漫画である。サラリーマンの格好をした猫が主人公で、第一回目は、自動販売機の前に転がる空缶を見ている。「なんだか無性に缶を蹴りたくなった」というキャプションが付いている。つい、わたくしも子どものころの缶蹴り遊びを思い出した。みな、親が呼びに来るまで缶蹴りに熱中したものだった。殊に夏は日が長いので。何ともほんわかのほほんとした雰囲気にさせてくれる。

「そんな日」は、猫の家政婦が主役の「きょうの猫村さん」(ほしよりこ)と並んで、猫のサラリーマン物語として愛読している。

ウラハイに連載されている「ペンギン侍」はキャラクターがずば抜けて面白く、登場する沈思犬ジョーがまた渋いというか、とんでも犬というか、わたくしは名作だと思う。

「スズキさん」と「そんな日」は、掲載されると真っ先に読んで面白がる癖がついてしまった。何も言っていないが、ただ生きているだけでも面白いことはあるものだなと、ほんの少しだが感じさせてくれるところが俳句的なのかも知れない。



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