2011-04-24

林田紀音夫全句集拾読161 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
161




野口 裕



ライターの火が逃げ海の旅終わる
昭和五十一年、未発表句。寺山修司と篠原鳳作と三好達治を混ぜたような句柄。ちょっと面白い。ライターというと、「ライターの火のポポポポと滝涸るる」(秋元不死男)もあり、二番煎じはまぬかれないことからの未発表だろう。一句飛ばして、「山上に消しライターの静かな火」がある。


薔薇褪せて鳩に傷つく空の紺

昭和五十一年、未発表句。中七下五の言い回しが独特。紀音夫の語に対する感覚は比較的素直なので、「鳩」は日本の長い平和を意味しているのかもしれない。とは言え、この場合の連想力は淡い。あくまで視界の中央には薔薇が存在している。

 

山彦を忘れて朽ちる自在鉤

昭和五十一年、未発表句。滅び行く文化を無季で言い留めた珍しい句。一句飛ばして、「山彦のもう帰ることなく斧のこる」。

 

咳のまたつづきの咳は夜の燠

昭和五十一年、未発表句。よくこれだけ咳がでるものだと、自分の症状を客観視している。それとともに、自己の中に燃え残っているものまでも、思い出してしまうのかも知れない。


風わたる昼暖色の握り飯

昭和五十一年、未発表句。かつては、飢えを反語的に示すこともできた「握り飯」。それを、「暖色」とするところに、満ち足りた日常が浮かび上がる。時の流れを逆行するように風が通りすぎる。

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