林田紀音夫全句集拾読 161
野口 裕
ライターの火が逃げ海の旅終わる
昭和五十一年、未発表句。寺山修司と篠原鳳作と三好達治を混ぜたような句柄。ちょっと面白い。ライターというと、「ライターの火のポポポポと滝涸るる」(秋元不死男)もあり、二番煎じはまぬかれないことからの未発表だろう。一句飛ばして、「山上に消しライターの静かな火」がある。
薔薇褪せて鳩に傷つく空の紺
昭和五十一年、未発表句。中七下五の言い回しが独特。紀音夫の語に対する感覚は比較的素直なので、「鳩」は日本の長い平和を意味しているのかもしれない。とは言え、この場合の連想力は淡い。あくまで視界の中央には薔薇が存在している。
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山彦を忘れて朽ちる自在鉤
昭和五十一年、未発表句。滅び行く文化を無季で言い留めた珍しい句。一句飛ばして、「山彦のもう帰ることなく斧のこる」。
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咳のまたつづきの咳は夜の燠
昭和五十一年、未発表句。よくこれだけ咳がでるものだと、自分の症状を客観視している。それとともに、自己の中に燃え残っているものまでも、思い出してしまうのかも知れない。
風わたる昼暖色の握り飯
昭和五十一年、未発表句。かつては、飢えを反語的に示すこともできた「握り飯」。それを、「暖色」とするところに、満ち足りた日常が浮かび上がる。時の流れを逆行するように風が通りすぎる。
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2011-04-24
林田紀音夫全句集拾読161 野口裕
Posted by wh at 0:05
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