〔句集を読む〕
見慣れた俳句の風景を壊していくこと
御中虫句集「おまへの倫理崩すためなら何度でも車椅子奪ふぜ」
鈴木牛後
これほど、心拍数を上下させながら読んだ句集はなかった。それは、句から来るインパクトはもちろんだが、句集の構成が実に効果的に作られていることにも依るのではないか。特に、チャーハン・ラモーンのイラストと御中虫の俳句の、見事なまでの響き合い。ステレオの両方のスピーカーの中央に身を置いた時の感覚に似ている。
夏雲を食ふ夏雲を食ふ夏雲
この句のとなりに配されている雲のイラスト。ただ青空に入道雲がある、というだけの景なのに、この力は何だろうか。単純さこそが力の源泉という、考えて見れば当たり前のことが目の前に現れた驚きかもしれない。
いつせいに果実は腐る午後三時
ここに描かれている果実に差し込んだ赤いもの。自分に何かが刺されたような感覚を覚えた。自分の意識に外部から侵入してくる異物。それに人並み外れて敏感な、御中虫の感覚の所産だろう。
ほとんどのページは1句か2句なのに、突然5句も詰め込まれているページの切迫感。そこに詰め込まれている句に、自分がはじき出されてしまうようだ。
虫の闇宇宙に鼓膜たゞ二つ
冬座敷誰もゐなくて宙返り
人人人人人人人銀杏散る
世界からはじき出された孤独感。それがひしひしと伝わってくる。
そして、はじき出されても、決して世界に凭りかからないという矜持が彼女にはある。
朝の滝さあ落ちやうぜ出発だ
見慣れた俳句の風景を壊していくことに、これほどある種の快感を覚えている自分に驚きながら読んだ句集だった。
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2011-05-15
御中虫句集「おまへの倫理崩すためなら何度でも車椅子奪ふぜ」を読む 鈴木牛後
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