2011-07-03

林田紀音夫全句集拾読171 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
171



野口 裕



数人の読経数十人の影
歯朶に日の騒ぐ一刻修験道
賑やかな数珠のさざめき夜のとばり

昭和五十一年、未発表句。三句続けて抹香臭い句。しかし、どれもそれなりに面白い。数人と数十年の落差、日当たる歯朶のきらめき、賑やかに数珠とつながる意外性。たとえばその頃の発表句、「死におくれ和讃の燭に影いくつ」(昭和五十一年、「海程」)、「燈明の夜昼血腥く炎え」(昭和五十一年、「花曜」)などと比べて遜色ない。たぶん、作中主体の出方に不満があったのだろうが。

 

藤揺れる一揆の鐘を楼上に

昭和五十一年、未発表句。かつて、鐘を合図にして、一揆が行われた。その歴史を思い起こすように、藤が揺れる。旅吟だろう。三句後に、「梵鐘を数万日の飢えに撞く」、さらにその五句後に、「木霊その他へ鐘楼四壁透く」。掲出句の出来が群を抜いていると見えるが、有季の句に発表を逡巡したか。

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